週の後半は、ややこしい在庫管理システムとにらめっこして過ごした。
 いよいよ来月発売される新型ハイペリオンの販促物件も、下版という制作の最終段階を迎え、部決、つまり刷り部数の決定も終えた。
 ここまで来たら、あとはもう無事に刷り上がり、納品されるのを待つばかり。
「解放感……!」
「それはよかった。お疲れさま」
 背もたれをきしませながら伸びをする視界に、さかさまの蔵寄さんが映った。
「うわっ、びっくりしました」
「そう? 気持ちよさそうだなあと思って」
 飛び起きるようにして姿勢を正した私を、にこにこして見ている。
 そのときフロアのドアが開き、オレンジと白のワンピースを着た女の子がふたり入ってきた。彼女たちは連絡用に使われている引き出しを開け、書類などが入っていないことを確認すると、ドアの前に並び、ぴっと美しく立つ。
「お先に失礼いたします」
 だれにともなく、というか全員に向かって言い、深々と頭を下げた。
 現役のアマナフレンズだ。ショールーム勤務の始まりと終わりに、管理部署である宣伝課に顔を出し、ああして挨拶していく。
 私と同じか私より若いくらいなのに、ヘアメイクは百貨店のBAさん並みに上手だし、笑顔は感じよく、話せば訓練された滑舌が耳に心地いい。なにを食べ、どういう人生を送ってくるとあんなにハイレベルな女の子になれるんだろう。
 ひとりが蔵寄さんに気づき、ぺこりと会釈した。蔵寄さんが気安い調子で、「お疲れさま。またよろしくね」と声をかけ、ひらひら手を振る。
 はっとひらめいた。
「そうだ、社内イチ女性に信頼されてると言われる蔵寄岳人がいるじゃない……」
「言われてないよ、どうしたの、生駒さん」
「ちょっといいですか」
 私は彼をつれて廊下へ出た。同じフロアにある控室へ戻っていくアマフレたちに手を振ってやり過ごし、人気のなくなったところで切り出す。
「アマフレの真栄さんの件は、ご存知ですよね」
「なんとなくは。澤口くんとのおつきあいを、社長に反対されてるんでしょ?」
 私に合わせて軽く身体を折り、ひそひそ話す。変装用のスーツの調達をしてくれたこともあるし、そのへんは耳に入っているらしい。
「真栄さんと近しいアマフレのどなたかの連絡先なんて、ご存知ないですか」
「知ってるよ」
「イケメンの力ってすごい……」
 思わず心の声が漏れた。