急にぺらぺらしゃべりだし、指で三センチくらいのサイズを示す。ステアリングを握る澤口さんの手に、ぐっと力がこもったのがわかった。
「トップクラス……」
 柊木さんが眉根を寄せてつぶやく。
 私はそれを、助手席からルームミラー越しに見ていた。

 一般道に戻り、適当なところで柊木さんが男性を車から蹴り出すと、車内はようやく人心地がついた。
「本社に戻ればいいですか?」
 小一時間、ずっと運転してくれていた澤口さんだ。「そうしてくれる?」と佐行さんが答えた。
「さっきと同じ、駅前のロータリーでいいよ」
「了解です」
 腕組みをして、前方をにらむように見つめている柊木さんが、ぼそっとつぶやく。
「トップクラスで、本拠地はおそらく茨城、か」
「技術本部長しかいないですよねー」
「くそ」
 忌々しそうに柊木さんが毒づいた。
 技術本部長といったら、かなりすごい人だ。開発部門は人数的にも社内のパワーバランス的にも、事務方である本社とは比べ物にならない力を持つ。そこの長。
「社長は、このことに勘づいてたんだ」
「本当に?」
「決まってる。だから俺を焚きつけたんだ。俺に証拠をつかませるために」
 腹に据えかねたように、彼は「くそ!」ともう一度吐き捨てた。
「あの……、俺はこれから、どうしたらいいですか」
 不安そうに澤口さんがルームミラーをのぞく。鏡越しに柊木さんが目を合わせた。
「これまでと変わりなく過ごしてください。真栄さんと会うのは、彼女の言うとおり、危険かもしれません。居場所がわかったとしても、慎重に」
 高校球児みたいな印象を与える、健康的な横顔がみるみる曇っていく。
「はい……」
 気の毒に。自業自得な一面もあれど、彼は巻きこまれただけなのだ。