澤口さんの車は、黒のハイペリオンとのことだった。新型の発売によってもうすぐ旧型となってしまう、現行の型だ。
私は駅前のロータリーで、彼の車を待った。茨城での練習を終えてから、一時間半ほどかけて移動してくることになる。もう二十一時。
聞きなれたエンジン音と、見慣れたヘッドライトがロータリーへ入ってきた。ポーチの照明の下まで車が来ると、たしかにハイペリオンだとわかる。
自家用車の乗降エリアにハイペリオンを停車させると、運転席から澤口さんが降りてきた。「こんばんは」と助手席のドアを開けてくれる。
「すみません、練習でお疲れのところ」
「とんでもないです。あの、来るだけでいいってことでしたけど……?」
私はしーっと口に指をあてながら、指示を受けたとおり、車に乗りこんだ。
ドアを閉める直前、乱闘のような物音が聞こえてくる。振り返ると、少し離れて停車している銀色のツーリングワゴンがぐらんぐらんと揺れていた。
「え、なんですか、あれ。ケンカ?」
ルームミラーを見た澤口さんが青くなる。私は「大丈夫ですから、ここにいてください」と彼をなだめたものの、自分でも半信半疑だった。
「あの車、茨城からうしろにいました?」
「たぶん。気づいたのは県境を越えたあたりです。まくなってことだったので、まかずに来ましたが」
計画どおりだ。柊木さんたちの計画だから、私がいばるところではないけれど。
やがてワゴンから人影がみっつ出てきた。ひとりは引きずり出されたような感じだ。人影はこちらへやってきて、後部座席のドアを開けると、ひとりを車内に放りこんだ。
やっぱり、澤口さんとはじめて会ったときに彼を追いかけていた、あの男性だった。ただし今は目を白黒させて、ふらふらしている。見たところ外傷はないけれど、相当手ひどくやられたらしい。
彼を真ん中に、左右から柊木さんと佐行さんが乗りこんできた。荒っぽくドアを閉め、「出してください」と柊木さんが指示する。呆然としてうしろを見ていた澤口さんは、はっとしたように前に向き直り、「はい」と車を発進させた。
車が首都高に乗ると、男性の首根っこをつかんでいた柊木さんは、その手をぐいと揺らし、自分のほうへ引き寄せた。
「だれに雇われてる?」
「言うわけねえだろ。見てろよお前ら、傷害で訴えてやるからな」
私は駅前のロータリーで、彼の車を待った。茨城での練習を終えてから、一時間半ほどかけて移動してくることになる。もう二十一時。
聞きなれたエンジン音と、見慣れたヘッドライトがロータリーへ入ってきた。ポーチの照明の下まで車が来ると、たしかにハイペリオンだとわかる。
自家用車の乗降エリアにハイペリオンを停車させると、運転席から澤口さんが降りてきた。「こんばんは」と助手席のドアを開けてくれる。
「すみません、練習でお疲れのところ」
「とんでもないです。あの、来るだけでいいってことでしたけど……?」
私はしーっと口に指をあてながら、指示を受けたとおり、車に乗りこんだ。
ドアを閉める直前、乱闘のような物音が聞こえてくる。振り返ると、少し離れて停車している銀色のツーリングワゴンがぐらんぐらんと揺れていた。
「え、なんですか、あれ。ケンカ?」
ルームミラーを見た澤口さんが青くなる。私は「大丈夫ですから、ここにいてください」と彼をなだめたものの、自分でも半信半疑だった。
「あの車、茨城からうしろにいました?」
「たぶん。気づいたのは県境を越えたあたりです。まくなってことだったので、まかずに来ましたが」
計画どおりだ。柊木さんたちの計画だから、私がいばるところではないけれど。
やがてワゴンから人影がみっつ出てきた。ひとりは引きずり出されたような感じだ。人影はこちらへやってきて、後部座席のドアを開けると、ひとりを車内に放りこんだ。
やっぱり、澤口さんとはじめて会ったときに彼を追いかけていた、あの男性だった。ただし今は目を白黒させて、ふらふらしている。見たところ外傷はないけれど、相当手ひどくやられたらしい。
彼を真ん中に、左右から柊木さんと佐行さんが乗りこんできた。荒っぽくドアを閉め、「出してください」と柊木さんが指示する。呆然としてうしろを見ていた澤口さんは、はっとしたように前に向き直り、「はい」と車を発進させた。
車が首都高に乗ると、男性の首根っこをつかんでいた柊木さんは、その手をぐいと揺らし、自分のほうへ引き寄せた。
「だれに雇われてる?」
「言うわけねえだろ。見てろよお前ら、傷害で訴えてやるからな」