「からいの食べる担当がいないよー。よりによって彼方の奴が今日外出とか」
「私、苦手じゃないので食べますよ。それにしても、すごい量ですね」
「野球選手の感覚なんだろうねえ」
 このピザは、昨日のお礼にと澤口さんが手配してくれたものらしい。本当に律義だ。そしてランチにデリバリーをプレゼントって、意外とおしゃれな気がする。
「結局、真栄さんの居所はわかったんでしょうか」
「さっき澤口さんから連絡が来た。候補を近場からあたったが、見つける前に時間切れだったそうだ。彼は茨城に戻ったよ」
「ということは、別荘にはまだ行っていないんですね……」
 ピザののった紙皿を受け取り、柊木さんがうなずいた。なんとなく感じた。真栄さんは別荘にいる可能性が高くて、柊木さんもそれを確信している。
「はい、こっちは生駒ちゃんセット」
 私はピザやポテトが盛られた紙皿を、ありがたくいただいた。
 納会の日でもないのに、会社でピザにありつけるとは思わなかった。おいしい。
「うまくいくといいですね、澤口さんたち」
 私の言葉に、柊木さんが「そうだな」と小さくつぶやく。
 心なしか、気乗り薄な表情に見えるのはなぜだろう。人の色恋沙汰には興味がないのか、それとも……。
「とはいえ、俺たちができるのは真栄ちゃんさがしまで。あとは澤口くん、自力でがんばれ、だよ」
「え?」
 佐行さんの言いかたに引っかかるものを感じ、聞き返したときだった。
 なんの前触れもなくドアが開いた。
 唖然とする私たちの前に現れたのは、真夏にもかかわらず三つぞろいのスーツをびしっと着た、大柄な初老の男性だった。部分的にグレーになった髪を清潔に切りそろえ、口元には皮肉な微笑みを浮かべている。
 顔立ちはすごく整っているんだけれど、全身から放たれる圧の強さのせいで、そこはもはやどうでもよくなる。
 私は思わず立ち上がっていた。佐行さんもぱっと席を立つ。
 悠然と入ってきた男性は、剣崎祐一郎(ゆういちろう)。一万五千人の従業員を統べる、天名インダストリーズの代表取締役社長だ。
 ひえ、と私は気圧された。
 社長の姿を直接見ることは、あまりない。宣伝課だけあって、新車発表会とかメディア向けのイベントなどでスピーチをしてもらったりすることはあるけれど、私のような新米は担当につくこともない。遠い人だ。