阿形さんが備えつけのカフェスペースで手早くコーヒーをいれ、みんなに配った。それを受け取り、澤口さんはベッドに座る。そばのデスクについていた柊木さんも、リストとコーヒーを受け取った。
柊木さんはリストをじっと眺めている。私はなぜか、彼のことが気になった。
「それにしたって……、こんなに事細かに宿泊場所を書いてたわけじゃないのに」
「被害者の瞳に映った画から犯人が特定される時代だからねー」
「剣崎家の別荘までありますよ、蓼科って……」
「まあそれは、彼女と話したことがある人から聞きました。そのへんの別荘によく行くってことだったので、エリアを特定して、別荘の所有者を調べて」
急に佐行さんの説明が、『触れてくれるな』といった空気をかもしだしはじめる。澤口さんは彼らの調査手腕に感動して気づいていない。
おそらく柊木さんからの情報なんだろう。その柊木さんが、澤口さんに尋ねる。
「どうしますか?」
「いただいたリストの場所を、時間の許すかぎりあたってみます。試合後の休暇は今日だけで、明日の朝には茨城に帰って、出社しないといけないので。あの、みなさん、ありがとうございました。俺だけだったら、なにもできなかった……」
彼は律義に立ち上がり、深々と頭を下げた。
「なにかあれば連絡を」と言い残し、柊木さんは私たちをつれて部屋を出た。
翌日の昼休み、私は地下三階の、以前行った倉庫みたいな部屋を目指した。
雨続きだったころの湿り気を残した廊下を歩き、鉄のドアをそっとノックする。言われたとおり、返事を待たずに社員証で開錠して中に入った。
ここに入るのは、カクワフーズの案件以来だ。室内はトマトとチーズの、禁断の匂いに満ちていた。会議机の中央に、デリバリーのピザが並んでいる。
「すごいですね!」
「お呼び立てしてごめんねー、僕たちだけじゃ食べきれないからさ」
すでに食べはじめている佐行さんが、隣の椅子を引いてくれる。壁や天井に大きなしみが目立つのは、雨漏りの名残だろう。
「いえいえ、ありがたいです。ご相伴にあずかります」
「柊木さん、次、どれにします?」
壁際のスチールラックに寄りかかり、紙皿を片手に立っている柊木さんが、最後のかけらを口に押しこんで、「サラミの」と紙皿を差し出した。
サラミとバジルのシンプルなピザを取り分けながら、佐行さんが嘆く。
柊木さんはリストをじっと眺めている。私はなぜか、彼のことが気になった。
「それにしたって……、こんなに事細かに宿泊場所を書いてたわけじゃないのに」
「被害者の瞳に映った画から犯人が特定される時代だからねー」
「剣崎家の別荘までありますよ、蓼科って……」
「まあそれは、彼女と話したことがある人から聞きました。そのへんの別荘によく行くってことだったので、エリアを特定して、別荘の所有者を調べて」
急に佐行さんの説明が、『触れてくれるな』といった空気をかもしだしはじめる。澤口さんは彼らの調査手腕に感動して気づいていない。
おそらく柊木さんからの情報なんだろう。その柊木さんが、澤口さんに尋ねる。
「どうしますか?」
「いただいたリストの場所を、時間の許すかぎりあたってみます。試合後の休暇は今日だけで、明日の朝には茨城に帰って、出社しないといけないので。あの、みなさん、ありがとうございました。俺だけだったら、なにもできなかった……」
彼は律義に立ち上がり、深々と頭を下げた。
「なにかあれば連絡を」と言い残し、柊木さんは私たちをつれて部屋を出た。
翌日の昼休み、私は地下三階の、以前行った倉庫みたいな部屋を目指した。
雨続きだったころの湿り気を残した廊下を歩き、鉄のドアをそっとノックする。言われたとおり、返事を待たずに社員証で開錠して中に入った。
ここに入るのは、カクワフーズの案件以来だ。室内はトマトとチーズの、禁断の匂いに満ちていた。会議机の中央に、デリバリーのピザが並んでいる。
「すごいですね!」
「お呼び立てしてごめんねー、僕たちだけじゃ食べきれないからさ」
すでに食べはじめている佐行さんが、隣の椅子を引いてくれる。壁や天井に大きなしみが目立つのは、雨漏りの名残だろう。
「いえいえ、ありがたいです。ご相伴にあずかります」
「柊木さん、次、どれにします?」
壁際のスチールラックに寄りかかり、紙皿を片手に立っている柊木さんが、最後のかけらを口に押しこんで、「サラミの」と紙皿を差し出した。
サラミとバジルのシンプルなピザを取り分けながら、佐行さんが嘆く。