これには、さすがの私たちも言葉を失った。
 アマナは自動車メーカーだ。社員の道交法違反には特別厳しい目が向けられるし、時代の流れに伴い、飲酒運転は発覚し次第、解雇処分という規定ができたくらい。
 入社時にそれを隠していたのもまずかった。社長からしたら二重の裏切りだろう。
『心の底から反省しています。今はもう、酒もほとんど飲みません。でも、やったことは消えませんし、正直に申告しなかったことも、俺の非ですし……』
『社長がそれを知ったのは、いつです?』
 柊木さんの質問に、『今年の四月です』と澤口さんは答えた。私はとくにぴんとくるものはなかったんだけれど、柊木さんたちは得心したようにうなずく。
『都市対抗の予選が始まる時期ですね』
『だろうな。企業チームに注目が集まるときだ。そこを狙って〝知らせた〟んだろう』
『そのころから、俺や佳乃に、記者みたいな人がつきまとうようになりました。俺もストレスでしたが、佳乃はとくにピリピリしだして……、俺の足手まといになりたくない、というメッセージを残して、いなくなりました』
 以降、連絡もないらしい。
『それが、いつ?』
『一か月ほど前です』
 東京で暮らす真栄さんと茨城で暮らす澤口さんは、遠距離恋愛だ。試合前には必ず電話で、がんばってねと励ましてくれる恋人だったらしい。
『だから、この本大会の前には連絡をもらえると信じてたんです。だけどそれもなくて……、本当に無事なのか、不安になってきて』
 柊木さんは考えこんでいる様子だった。私は祈るような気持ちで彼を見つめた。
 澤口さんはどう見てもいい人だ。来週二回戦を控えている今、自由に動ける時間もないはず。助けてあげてほしい。
 とはいえ恋人とその実家のいざこざに第二総務部が首を突っこむのもおかしい。柊木さんがどういう決断を下すのか、私は見守った。
 佐行さんと阿形さんも、じっと彼に視線を注ぎ、指示を待っている。
 やがて柊木さんが言った。
『真栄佳乃さんの居所をさがすお手伝いをしましょう』

 ホテルに到着した。部屋番号は知っているので、エレベーターに直行する。
 赤いじゅうたんと真鍮の手すりで飾られたロビーは古めかしく、高価なものだとひと目でわかるシャンデリアがぶらさがっている。老舗のホテルだ。
「色恋系の案件って珍しいよな」