澤口さんと真栄さんは社内のイベントで出会ったそうだ。まだアマナフレンズだった真栄さんは、そのイベントの司会をするために茨城の事業所に派遣された。
 技術本部の総務部勤務である澤口さんは、イベントの運営スタッフとして、彼女の控室の手配をしたり、進行管理をしたりした。
『向こうから声をかけてきて……、連絡先を交換して。社外で会ったりはしませんでした。彼女はまだフレンズだったので』
 役員会議室で、彼は生まじめにそう語った。
 アマナフレンズは、ファンにとってみればアイドルのようなものだ。恋愛禁止令こそないものの、大っぴらに男性とつきあったりするのはご法度。
『その年度末に彼女はフレンズを卒業したので、そこから会うようになりました。ですからつきあってまだ一年と少しです』
 千奈美さんによれば、真栄さんは短大を出てアマナフレンズとなり、四年間勤めて卒業していったとのこと。計算すると、今二十六歳。澤口さんのひとつ上だ。
 その真栄さんが行方不明らしい。
 ホテルは会社から歩いて十分程度だ。人目を忍ぶ必要さえなければ、タクシーより歩くほうが早い。買い出ししながら行く必要もあり、私たちは徒歩を選んだ。
「だれもついてきてないよな」
「大丈夫」
 佐行さんがちらっと背後を確認して言った。手には柊木さんの指示で買った、澤口さんの着替えや食料が入った袋を提げている。
「しかし、あんなふうに追いかけられて、気の毒だねー。大会の最中なのにさ」
「大会中だからこそ、ネタになる写真でも撮ってすっぱ抜きたいんだろ。そんなひまがあるなら彼女のほうさがしてくれりゃいいのに」
 そう、順調だったふたりのおつきあいは、ここに来て暗雲がたれこめはじめたらしい。真栄さんの伯父である剣崎社長が、別れろと言いだしたんだそうだ。
 えーっと異を唱えたのは佐行さんだった。
『それまで認めてたんでしょ? なのにいきなり? 澤口くんをうちに誘ったのも社長だよね。だったら姪と澤口くんがおつきあいするなんて、大歓迎じゃない』
『そう、言っていただけてたんですが……』
 澤口さんが顔をこわばらせる。両手をぎゅっと組みあわせ、懺悔でもするみたいに、絞り出すような声を出した。
『俺は学生時代、原付の酒気帯び運転で免許取消になったことがあるんです。だれかが社長に、それを知らせたみたいで……』