昨日応援していたときも、私はあのピッチャーの人は華奢だなあと思って見ていたくらいだから、世のスポーツ選手というのは、相当に恵まれた体格の持ち主ばかりなんだろう。
「甲子園で優勝したときは、まだ線が細くてね。このままプロ入りしたら苦労するだろうって言われてたんだ。彼もわかってたのかな、進学を選んだんだよ」
「この大学、野球も有名なところですよね、私も知ってます」
「そう。その選択がめちゃくちゃ正しかった。彼は着実に身体と技術を成長させ、大学を二度の優勝に導いた。卒業後は今度こそプロ入りかって騒がれた。それがなんと、うちへの入社を選んだっていうんだから!」
 ようするに、入社前から野球好きにはスター的な存在だったわけだ。記事によれば、『自分の人生を冷静に見つめた結果』企業チームに入ることを決めたとある。
「もったいないって声も多かったけどね」
「本人が選んだ結果なら、いいんじゃないですか」
「そうそう! 真のファンはそう考えるべきだよ!」
 ほかにもざっと記事を読んだものの、野球的な話はちんぷんかんぷんだ。
 取り急ぎ、澤口さんが二十五歳とわかったところで、私はフロアの反対側の端にある部品企画部へと向かった。アクセサリーカタログなどを企画管理する部署だ。今手がけている秋の物件のことで相談がある。
 それと、相談ごとがもうひとつ。
真栄(さなえ)佳乃(よしの)? 元アマナフレンズの?」
 部品企画部の打ちあわせスペースで、千奈美(ちなみ)さんという先輩社員がきょとんとした。それから周囲を気にするように、ひそひそ声になる。
「しかも今の社長の姪っ子だよ、知ってる?」
「はい。だから興味が出ちゃって。モーターショーのことを調べてたら、ファンの人のブログを偶然見つけたんですよ」
「ああ、なるほど」
 彼女は得心したように大きくうなずいた。強めに巻いた髪がトレードマークの迫力美人だ。私の配属と同じタイミングで、宣伝課から部品企画部に異動した。入社したてで右も左もわからないころ、『宣伝課にいたから少しはわかるよ』と、親身になっていろいろ教えてくれた。
 その千奈美さんが宣伝課時代に担当していた仕事のひとつが、アマナフレンズのマネジメント業務だ。