地下道の左右は、さまざまなビルの商業フロアが口を開けている。カフェも居酒屋もコンビニも郵便局も、なんでもある。
大きな書店の横を通ったとき、ちょっと寄っていこうかなとそちらに足を向けた。最近忙しくて、新刊のチェックができてない。
だけど、そうゆっくりする時間はないかな、と腕時計を見たときだった。なにかがすごい勢いでぶつかってきて、私は跳ね飛ばされた。と思ったら、飛ぶ寸前で両肩をがしっとつかまれ、免(まぬが)れる。
「すみません!」
「は……」
見上げるような背丈の、若い男の人だった。Tシャツにジーンズというカジュアルな姿で、ごく短く刈られた髪型的にスポーツマンぽいなと思ったものの、突然のことに動揺して頭が回らない。
その人は私をさっと観察すると、いきなり私のトートバッグと、首から提げていた社員証のストラップを奪い取った。
「すみません、お借りします!」
え!?
私が呆然としているうちにその人は姿を消しており、代わりに私の視界には、いつの間にか別の男の人がいた。よれよれしたシャツとチノパンにサングラス。一見してカタギじゃないなあという雰囲気の人だ。
周囲はランチ時間帯ということもあり、身軽な格好のビジネスパーソンが行き来している。カタギじゃなさそうな彼は、ねばつくような視線をあちこちに向けながら、ゆっくりと時間をかけてうろうろすると、やがてどこかへ姿を消した。
書店の入り口前からそれを見ていた私は、そろりと店内に入り、入ってすぐの雑誌コーナーで、なにげないふりで立ち読みしていた男性に声をかけた。
「行っちゃいましたよ」
さっきぶつかった男性だ。私のトートバッグを肩にかけ、社員証を首から提げている。それだけで、近隣で働いている人のように見えるから、印象って不思議だ。
近くに行ってみると、彼がぶるぶると震え、額に汗を浮かべているのがわかる。
彼は慎重に店の外を確認してから、ふーっと深いため息をつき、カムフラージュに使った私のものを返してくれた。
「すみません……本当に。すみませんでした」
「いえいえ」
恐縮しきった様子で、何度も頭を下げる。どう考えてもとんでもない事情がありそうで、ものすごく気にはなるものの、いかんせん昼休みの終わりが近い。
大きな書店の横を通ったとき、ちょっと寄っていこうかなとそちらに足を向けた。最近忙しくて、新刊のチェックができてない。
だけど、そうゆっくりする時間はないかな、と腕時計を見たときだった。なにかがすごい勢いでぶつかってきて、私は跳ね飛ばされた。と思ったら、飛ぶ寸前で両肩をがしっとつかまれ、免(まぬが)れる。
「すみません!」
「は……」
見上げるような背丈の、若い男の人だった。Tシャツにジーンズというカジュアルな姿で、ごく短く刈られた髪型的にスポーツマンぽいなと思ったものの、突然のことに動揺して頭が回らない。
その人は私をさっと観察すると、いきなり私のトートバッグと、首から提げていた社員証のストラップを奪い取った。
「すみません、お借りします!」
え!?
私が呆然としているうちにその人は姿を消しており、代わりに私の視界には、いつの間にか別の男の人がいた。よれよれしたシャツとチノパンにサングラス。一見してカタギじゃないなあという雰囲気の人だ。
周囲はランチ時間帯ということもあり、身軽な格好のビジネスパーソンが行き来している。カタギじゃなさそうな彼は、ねばつくような視線をあちこちに向けながら、ゆっくりと時間をかけてうろうろすると、やがてどこかへ姿を消した。
書店の入り口前からそれを見ていた私は、そろりと店内に入り、入ってすぐの雑誌コーナーで、なにげないふりで立ち読みしていた男性に声をかけた。
「行っちゃいましたよ」
さっきぶつかった男性だ。私のトートバッグを肩にかけ、社員証を首から提げている。それだけで、近隣で働いている人のように見えるから、印象って不思議だ。
近くに行ってみると、彼がぶるぶると震え、額に汗を浮かべているのがわかる。
彼は慎重に店の外を確認してから、ふーっと深いため息をつき、カムフラージュに使った私のものを返してくれた。
「すみません……本当に。すみませんでした」
「いえいえ」
恐縮しきった様子で、何度も頭を下げる。どう考えてもとんでもない事情がありそうで、ものすごく気にはなるものの、いかんせん昼休みの終わりが近い。