わしら、イマドキのギャルやから、お笑い好きで、エセ関西弁使うてる。おもろかったらええ。おもろなかったら、どないイケメンでもついて行かへんで。

 あんた、あれ以上におもろいやつ知ってるか? 玉城レイ。わしと同じクラスのギャルじゃ。あの女、おやじがモミゾウらしいな。ちゅーてもただのモミゾウやあらへん。マスターモミゾウや。天才中の天才マッサージ師ちゅうこっちゃな。

「レイ、肩モミスケして!」

 休み時間になると、ギャルが殺到しよる。するとレイは指を蠕動させてモミスケする。するとたちまち寝るんじゃ。

「ヤバい寝てまう」「寝る寝る」「落ちるう」「さいならー」

 ホンマおもろい。寝かすツボちゅうもんがあるんやな。それをやられたらしまいや。血筋やな。レイもマスターなんじゃ。

 みんな寝るとシーンなるで。なんでやと思う? そら、地球の音のほとんどはわしらが出しとるからや。常識やで常識。

 クラスのメンズどもは、醒めた目で見とる。わしらが大口開けてよだれ垂らしとると、

「みっともねえ」

 なんてぬかしよる。どいつもこいつもブスのくせにクール気取りや。全然おもろないんじゃ!

 と、少々イケメン寄りのブスの一ノ瀬イッチが(仇名やで。本名は忘れた)、

「サイレントがいない」

 ボソリと言いよった。サイレントちゅうのもむろん仇名や。本名は幾野セリイやが、ある日突然しゃべるのをやめよったんで、メンズの誰かがそうつけた。

 セリイもおもろいギャルやで。口あるのにしゃべらんちゅうのはユニークな発想や。病気やなくて、完璧に自分の意志でそうしとる。担任も親も困っとるで。ま、わしらはおもろいから、ギネスに載るまでそうしとけ言うとるけどな。

 世界史の教師が入ってきた。確かにセリイの席に、サイレントがおらん。

 わしと、隣の席のイッチの目が合うた。

「奥川、気づいた?」

 奥川ユエナいうんが、わしの名前や。

「サイレントいないけど、トイレかな」

「さあ。人の尿意まで知らんわい」

「尿にしては長くない?」

「なんやわれ、セリイに気ィあんのか」

「気にならない?」

「なんでやねん。あれ、黙っとるだけやで。座敷わらしみたいなもんで、おってもおらんでも一緒や」

「むしろ、きみたちがしゃべりすぎなんだよ。そっちのほうがビョーキ。ぼくからしたら、サイレントのほうがまともだね」

「オエッ!」

 ブスメンに、きみとかぼくとかとか言われてみい。即、吐くで。

「ちょっとそこ、うるさいわよ!」

 三十路の女教師が喚いた。イッチはすかさず、

「幾野さんがいないんですが」

「知ってます。自分の意志で出て行ったんだから、ほっときなさい」

「でもカバンはありますよ。だから帰ったわけじゃ――」

「黙んなさい!」

 ほれ見い。ヒストリーの授業がヒステリーになったがな。教師はみんな、めんどくさいサイレントなんぞに興味ないんや。

 そのセリイを好きになるとは、イッチもなかなか変わっとる。

 そんときや、レイの様子がおかしいのに気づいたんは。目を血走らせて、歯をむき出して、イッチのことをにらんどる。わし、ピーンときたがな。

 マスターモミゾウの娘は、イッチに惚れとる。