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瑛太がトイレから出てきた私に気づくと、自分もトイレに行きたくなったのか、こっちに向かってきた。
私とは何も言わずにすれ違い、そしてドアを開けてさっさとトイレに入っていった。
私は席に戻るが、自分が少しそこにいなかったことで空気が違っているように思えた。
「もしかして、私がいない間に瑛太が私のこと何か言ってた?」
冗談っぽく笑って言ったつもりだったが、意外にも拓登は真剣に「そんなことないよ」と首を横に振った。
明彦は残っていたスナック菓子を忙しく急につまんで食べている。
やはり何かを誤魔化そうとしている空気が流れてるように思えてならなかった。
「拓登は瑛太といつのまにか仲良くなっちゃったみたいだね」
「えっ? そ、そうかな。でも何回も会っちゃうと無視するわけにも行かないし、普通にしているだけだけど」
なんだかこの時、朝の事をそれとなく聞いてみたくなった。
そこで私はカマをかけてみた。
「それがさ、中学の友達が、今朝、電車で瑛太を見たとかメールを送ってきて、その時私と同じ制服を着た男子が一緒だったとか言ってたんだけど、それってもしかして拓登のこと?」
「えっ、ああ、今朝はそういえば偶然同じ電車だった」
拓登は素直に認めた。
私の推測では、ここは隠すんじゃないかと思ったが、別に隠すことでもないようだった。
やっぱりただの偶然だった。
どうしてあの時、私は変にかいぐって逃げてしまったんだろう。
一人で悶悶としていた事が馬鹿に思えた。
だけど、隠すことがないのなら、一言出会ったと言ってくれてもよさそうなのに。
そうしたら、私も変に思うこともなかった。
ただいい忘れてただけだろうか。
それとも心配かけないようにと気を遣ってのことだったのだろうか。
色んな思いを抱きながらも、笑顔だけは忘れないように笑ってみたものの、どこか引き攣って不自然になってしまった。
「知ってるだけに、無視もできないもんね。でも意地悪とかしてきたら正直に言ってよ。結構根に持ってしつこいタイプそうだから」
「大丈夫だよ。適当に付き合ってるだけだから。それよりも真由は大丈夫なのか。もしかしたら瑛太のこと気になってるとか」
「ないないない!」
思わず手をひらひらと振って強く否定してしまった。
拓登は笑っていた。
だけど、とても複雑な思いがして胸がもやもやする。
拓登は一体この状況をどう受け止めているのだろうか。
私は拓登だけを真剣に見ていたいし、その気持ちに応えたいと思っているのになぜかすごい片思いを感じてしまう。
これも瑛太が絡んできたからこうなってしまったようでもあり、でも絡まなかったら拓登が競争心を持って積極的にならなかったかもしれない。
一体どうなってるんだろう。
変な三角関係に私の頭に疑問符がポンっと現れた。
ひたすらスナック菓子を食べている明彦は観客のように静かに私達の会話を聞いていた。
目だけは好奇心でランランとしているのに、何も言って来ないのは様子を見ているからなのだろう。
後できっと瑛太に報告するんだろうと思うと、なんだか鬱陶しく思えてくる。
鬱憤晴らしに、明彦がつまんで食べようとしていたスナック菓子をさっと横取りして口に入れた。
その後は、お好きに喋ればいいからと示唆するようにわざとらしく笑ってやった。
そして、瑛太がトイレから出てくると私達は自然と帰ることになった。
皆それぞれの飲み物代を支払う。
やはり今回も割引価格だった。
「ヒロヤさん、いつも安くしてもらって悪いです」
私がお金を払うときに言った。
「何いってんの、まだ学生の癖に。ここは学割が利くんだから、だからいつでも利用しにきてね。友達紹介も大歓迎だから」
明るく笑顔で言われると、遠慮する事が失礼なことのように思える。
ただ、ちゃんと儲かっているのか個人的に気になるが、そういうことは私の口からは聞けなかった。
だから、店を出たとき明彦に聞いてみた。
「真由ちゃんって、心配しすぎ。あれでもヒロヤさんビジネス上手だよ。ああいう隠れた店は常連さんが一杯ついてるんだ」
「全然、想像できない」
「一人で切り盛りしてるから、あまり忙しくても困るみたい」
明彦はヒロヤさんのことは何でも知ってると言いたげに、得意そうに教えてくれた。
「だけど、千佳も明彦君もヒロヤさんの店を紹介するから、私はてっきりビジネスのお手伝いのためかと思って」
「もちろんそれもあるんだ。僕たち姉弟はヒロヤさんにお世話になったから、そういうことで恩を返すしかないと思ってるし、それよりもあそこに行くと落ち着くんだ。いっそのこと住み着きたいくらいに大好きなんだ」
「その気持ちは分かるような気がする。いいお店だもんね」
お店もだが、きっとヒロヤさんの事も大好きなのだろう。
私もヒロヤさんと会ってすぐに親しみがもてたくらいだった。
優しいオーラがでてるというのか、お店同様の安心感がある。
「だけど、内装のログハウス風と違って変わった名前つけてるよね。『艶』って。なんか渋いようでもあるし、スナックみたいな響きでもある。ああいう店ならもっとカタカナ的な名前が合いそう」
「その名前はちゃんとした由来があって、ヒロヤさんなりに意味を込めてるんだ。真由ちゃんにもそのうちわかるかもしれないよ」
明彦は理由を知っているのに教えようとする気がないように思えた。
一種のなぞなぞのようで、自分でその理由を見つけないといけないのだろうか。
そう言われると気になって知りたくなってくるが、私も訊くのはやめた。
きっとそこにはヒロヤさんに関する謎が隠されているのだろう。
少しずつ自分で気がついて行く方が人から教えられるよりいいような気がした。
すぐに教えない明彦も、あまり自分の口から言いたくない何かがあるのかもしれない。
その後はヒロヤさんの話題はしなくなった。
皆どこかで謎があると言うことだった。
明彦と話しているうちに、ふと後を振り返れば拓登と瑛太が適当な距離を保ってバラバラで歩いていた。
肩を並べて仲良くしろとは言わないけど、朝の二人とはまた違う態度のように思えた。
私の前では二人はあまり喋らないようにしているみたいで、それがなんだか不自然に見えてくる。
私が居なければ、二人は普通に話をしているのだから、私がいるから、彼らをそうさせているのかもしれない。
だけど、一体それもなぜなんだろう。
一つおかしいと思うと、全てが歪み出してきたような感じだった。
瑛太がトイレから出てきた私に気づくと、自分もトイレに行きたくなったのか、こっちに向かってきた。
私とは何も言わずにすれ違い、そしてドアを開けてさっさとトイレに入っていった。
私は席に戻るが、自分が少しそこにいなかったことで空気が違っているように思えた。
「もしかして、私がいない間に瑛太が私のこと何か言ってた?」
冗談っぽく笑って言ったつもりだったが、意外にも拓登は真剣に「そんなことないよ」と首を横に振った。
明彦は残っていたスナック菓子を忙しく急につまんで食べている。
やはり何かを誤魔化そうとしている空気が流れてるように思えてならなかった。
「拓登は瑛太といつのまにか仲良くなっちゃったみたいだね」
「えっ? そ、そうかな。でも何回も会っちゃうと無視するわけにも行かないし、普通にしているだけだけど」
なんだかこの時、朝の事をそれとなく聞いてみたくなった。
そこで私はカマをかけてみた。
「それがさ、中学の友達が、今朝、電車で瑛太を見たとかメールを送ってきて、その時私と同じ制服を着た男子が一緒だったとか言ってたんだけど、それってもしかして拓登のこと?」
「えっ、ああ、今朝はそういえば偶然同じ電車だった」
拓登は素直に認めた。
私の推測では、ここは隠すんじゃないかと思ったが、別に隠すことでもないようだった。
やっぱりただの偶然だった。
どうしてあの時、私は変にかいぐって逃げてしまったんだろう。
一人で悶悶としていた事が馬鹿に思えた。
だけど、隠すことがないのなら、一言出会ったと言ってくれてもよさそうなのに。
そうしたら、私も変に思うこともなかった。
ただいい忘れてただけだろうか。
それとも心配かけないようにと気を遣ってのことだったのだろうか。
色んな思いを抱きながらも、笑顔だけは忘れないように笑ってみたものの、どこか引き攣って不自然になってしまった。
「知ってるだけに、無視もできないもんね。でも意地悪とかしてきたら正直に言ってよ。結構根に持ってしつこいタイプそうだから」
「大丈夫だよ。適当に付き合ってるだけだから。それよりも真由は大丈夫なのか。もしかしたら瑛太のこと気になってるとか」
「ないないない!」
思わず手をひらひらと振って強く否定してしまった。
拓登は笑っていた。
だけど、とても複雑な思いがして胸がもやもやする。
拓登は一体この状況をどう受け止めているのだろうか。
私は拓登だけを真剣に見ていたいし、その気持ちに応えたいと思っているのになぜかすごい片思いを感じてしまう。
これも瑛太が絡んできたからこうなってしまったようでもあり、でも絡まなかったら拓登が競争心を持って積極的にならなかったかもしれない。
一体どうなってるんだろう。
変な三角関係に私の頭に疑問符がポンっと現れた。
ひたすらスナック菓子を食べている明彦は観客のように静かに私達の会話を聞いていた。
目だけは好奇心でランランとしているのに、何も言って来ないのは様子を見ているからなのだろう。
後できっと瑛太に報告するんだろうと思うと、なんだか鬱陶しく思えてくる。
鬱憤晴らしに、明彦がつまんで食べようとしていたスナック菓子をさっと横取りして口に入れた。
その後は、お好きに喋ればいいからと示唆するようにわざとらしく笑ってやった。
そして、瑛太がトイレから出てくると私達は自然と帰ることになった。
皆それぞれの飲み物代を支払う。
やはり今回も割引価格だった。
「ヒロヤさん、いつも安くしてもらって悪いです」
私がお金を払うときに言った。
「何いってんの、まだ学生の癖に。ここは学割が利くんだから、だからいつでも利用しにきてね。友達紹介も大歓迎だから」
明るく笑顔で言われると、遠慮する事が失礼なことのように思える。
ただ、ちゃんと儲かっているのか個人的に気になるが、そういうことは私の口からは聞けなかった。
だから、店を出たとき明彦に聞いてみた。
「真由ちゃんって、心配しすぎ。あれでもヒロヤさんビジネス上手だよ。ああいう隠れた店は常連さんが一杯ついてるんだ」
「全然、想像できない」
「一人で切り盛りしてるから、あまり忙しくても困るみたい」
明彦はヒロヤさんのことは何でも知ってると言いたげに、得意そうに教えてくれた。
「だけど、千佳も明彦君もヒロヤさんの店を紹介するから、私はてっきりビジネスのお手伝いのためかと思って」
「もちろんそれもあるんだ。僕たち姉弟はヒロヤさんにお世話になったから、そういうことで恩を返すしかないと思ってるし、それよりもあそこに行くと落ち着くんだ。いっそのこと住み着きたいくらいに大好きなんだ」
「その気持ちは分かるような気がする。いいお店だもんね」
お店もだが、きっとヒロヤさんの事も大好きなのだろう。
私もヒロヤさんと会ってすぐに親しみがもてたくらいだった。
優しいオーラがでてるというのか、お店同様の安心感がある。
「だけど、内装のログハウス風と違って変わった名前つけてるよね。『艶』って。なんか渋いようでもあるし、スナックみたいな響きでもある。ああいう店ならもっとカタカナ的な名前が合いそう」
「その名前はちゃんとした由来があって、ヒロヤさんなりに意味を込めてるんだ。真由ちゃんにもそのうちわかるかもしれないよ」
明彦は理由を知っているのに教えようとする気がないように思えた。
一種のなぞなぞのようで、自分でその理由を見つけないといけないのだろうか。
そう言われると気になって知りたくなってくるが、私も訊くのはやめた。
きっとそこにはヒロヤさんに関する謎が隠されているのだろう。
少しずつ自分で気がついて行く方が人から教えられるよりいいような気がした。
すぐに教えない明彦も、あまり自分の口から言いたくない何かがあるのかもしれない。
その後はヒロヤさんの話題はしなくなった。
皆どこかで謎があると言うことだった。
明彦と話しているうちに、ふと後を振り返れば拓登と瑛太が適当な距離を保ってバラバラで歩いていた。
肩を並べて仲良くしろとは言わないけど、朝の二人とはまた違う態度のように思えた。
私の前では二人はあまり喋らないようにしているみたいで、それがなんだか不自然に見えてくる。
私が居なければ、二人は普通に話をしているのだから、私がいるから、彼らをそうさせているのかもしれない。
だけど、一体それもなぜなんだろう。
一つおかしいと思うと、全てが歪み出してきたような感じだった。