7
下駄箱に向かうと、外で背中を向けてる拓登がいた。
俯き加減で手元が動いているところをみると、スマホを操作している様子だった。
その時は気にも留めず、急いで靴に履き替えて、拓登の側に行く。
「お待たせ」
その言葉は自然と出てきたように思う。
少しずつだが、拓登に慣れてきて無理なく自分らしさが出てきた感じだった。
拓登はスマホをすぐに片付けて、そして私に微笑みかけてくれた。
拓登の隣に肩を並べて、というより、拓登の方が背が高いので肩と頭を並べてという感じかもしれないが、私達は恥ずかしがることなく一緒に歩いた。
朝、瑛太と出会ったことを話してくるかもと思っていたが、拓登はそれには一切触れなかった。
私に心配を掛けないためにわざと言わないのかもしれない。
私としては、二人は混み合った電車の中でどうしていたのか知りたかったけど、それを訊いてしまえば、私が朝同じ時間にホームにいた事がばれてしまう。
見てみぬふりしただけに、自分からは決して振れない話題だった。
「真由は高校生活を楽しんでる?」
「うん、なんとか。いい友達もできたし……」
ここで拓登と知り合った事も付け足したいが、ちょっとまだ恥ずかしく口に出せなかった。
拓登と顔を合わせ、とりあえずは目で表現しようと意味ありげに笑ってみた。
通じたか通じてないか分からないが、同じように笑顔が返ってきた。
その後は日々感じていることをさらっと言ってみた。
「でも授業が結構早く進むような気がして、ついていけるか少し心配」
「そうだよね。それは僕も思う。だけど受かったんだからやっていかなくっちゃね。ここに来たくても落ちちゃった人もいるから、恵まれてる分やらないと勿体無いよね」
「勿体ないか。そうだね。まさに無駄にできないって思えてくるね。それじゃ私も頑張らないと」
拓登は大きく頷いて同意する。
そしてぱっと閃いたように突然目を見開いた。
「ねぇ、頑張れ、頑張れって、特に人に応援してもらうともっとやる気がでると思わないかい?」
「うん、そうだよね。応援されると嬉しいもんね」
「じゃあ、真由、僕に頑張れって言ってみてくれない」
拓登は懇願な眼差しを向けた。
何かの験担ぎなのかと思ったが、拓登が真剣だったのでとりあえずリズミカルに言ってみた。
「ガンバレ! ガンバレ! 拓登。これでいい?」
「うん、もうちょっと感情込めて」
「えっ? 感情? だったら、拓登ぉ~、頑張ってぇぇ~」
演歌歌手のようにコブシを作って力を込めてみた。
これでいいのかと拓登を見ると、拓登はそれに反応するわけじゃなく私の様子をじっと伺っていた。
「もしかして、ダメだった?」
「ううん、そんなことない。ただ……」
「ただ、どうしたの?」
「ううん、なんでもない。応援ありがとう。でも、時々僕に応援のメールとか送ってくれない?」
「メール? うん、いいけど。どうしたの? 何か試験とか試合とかあって気合を入れたいの?」
「ちょっとね。まあ、僕の拘りなんだけど。僕は頑張れっていう言葉で頑張ってきたんだ。その言葉が好きで、ちょっと真由に言って貰いたかっただけ」
「私でお役に立てるなら、いつでも頑張れっていうけど」
拓登は照れた風に笑っていたけど、ふと前を見据えた目がどこか寂しそうに遠くを見つめているようだった。
なぜか拓登には陰りが見えて、時々変な行動をするだけに、不思議だなと思う時がある。
そんな憂いな表情も様になってるだけにかっこいいとは思うが、そういうところも含めて真剣に見て欲しいと思っているのだろうか。
「どうしたの。僕をじっと見て」
「えっ、だって、真剣に見るって約束したから」
私もここは拓登の言葉を借りて言ってみた。
「そうだった。じゃあ、僕をしっかり見て」
またまじかに顔を寄せてくる。
一瞬びっくりして仰け反りそうになったけど、ここは踏ん張ってみた。
なんだかにらめっこしてる気分だった。
「ねぇ、もし僕が真由の頬にキスしたらどう思う?」
「えっ!」
一体何を言い出すのかと思って、驚きすぎて咄嗟に身を引いてしまった。
「やっぱりダメか」
妙に拓登ががっかりしていた。
それよりも、顔を近寄せて頬にキスとか言われたらびっくりするとか思わないのだろうか。
ドキドキと心臓が口から飛び出そうだった。
「あの、ちょっとそれは……」
「でも瑛太とは、そのアレだったんだろ」
「えっ、瑛太? あっ、あれはだから無理やりで、はっきり言って犯罪行為だと思う」
それは言わないで欲しかった。
過去の記憶も含め忘れたいと思っているのに、拓登に穿り返されるのは辛い。
「無理やりは犯罪行為か……」
拓登はその時苦笑いになっていた。
「私、瑛太とは本当に接点がなくて、なぜいきなり声を掛けられたのかも未だに不可解」
「あのさ、もしかしたら瑛太は真由の知らない事を知っていて、それを伝えようとしているって事は考えられない?」
「えっ、どういうこと?」
私が聞き返すと、拓登は私を見るも口をあけたままその後が言えず逡巡しているようだった。
下駄箱に向かうと、外で背中を向けてる拓登がいた。
俯き加減で手元が動いているところをみると、スマホを操作している様子だった。
その時は気にも留めず、急いで靴に履き替えて、拓登の側に行く。
「お待たせ」
その言葉は自然と出てきたように思う。
少しずつだが、拓登に慣れてきて無理なく自分らしさが出てきた感じだった。
拓登はスマホをすぐに片付けて、そして私に微笑みかけてくれた。
拓登の隣に肩を並べて、というより、拓登の方が背が高いので肩と頭を並べてという感じかもしれないが、私達は恥ずかしがることなく一緒に歩いた。
朝、瑛太と出会ったことを話してくるかもと思っていたが、拓登はそれには一切触れなかった。
私に心配を掛けないためにわざと言わないのかもしれない。
私としては、二人は混み合った電車の中でどうしていたのか知りたかったけど、それを訊いてしまえば、私が朝同じ時間にホームにいた事がばれてしまう。
見てみぬふりしただけに、自分からは決して振れない話題だった。
「真由は高校生活を楽しんでる?」
「うん、なんとか。いい友達もできたし……」
ここで拓登と知り合った事も付け足したいが、ちょっとまだ恥ずかしく口に出せなかった。
拓登と顔を合わせ、とりあえずは目で表現しようと意味ありげに笑ってみた。
通じたか通じてないか分からないが、同じように笑顔が返ってきた。
その後は日々感じていることをさらっと言ってみた。
「でも授業が結構早く進むような気がして、ついていけるか少し心配」
「そうだよね。それは僕も思う。だけど受かったんだからやっていかなくっちゃね。ここに来たくても落ちちゃった人もいるから、恵まれてる分やらないと勿体無いよね」
「勿体ないか。そうだね。まさに無駄にできないって思えてくるね。それじゃ私も頑張らないと」
拓登は大きく頷いて同意する。
そしてぱっと閃いたように突然目を見開いた。
「ねぇ、頑張れ、頑張れって、特に人に応援してもらうともっとやる気がでると思わないかい?」
「うん、そうだよね。応援されると嬉しいもんね」
「じゃあ、真由、僕に頑張れって言ってみてくれない」
拓登は懇願な眼差しを向けた。
何かの験担ぎなのかと思ったが、拓登が真剣だったのでとりあえずリズミカルに言ってみた。
「ガンバレ! ガンバレ! 拓登。これでいい?」
「うん、もうちょっと感情込めて」
「えっ? 感情? だったら、拓登ぉ~、頑張ってぇぇ~」
演歌歌手のようにコブシを作って力を込めてみた。
これでいいのかと拓登を見ると、拓登はそれに反応するわけじゃなく私の様子をじっと伺っていた。
「もしかして、ダメだった?」
「ううん、そんなことない。ただ……」
「ただ、どうしたの?」
「ううん、なんでもない。応援ありがとう。でも、時々僕に応援のメールとか送ってくれない?」
「メール? うん、いいけど。どうしたの? 何か試験とか試合とかあって気合を入れたいの?」
「ちょっとね。まあ、僕の拘りなんだけど。僕は頑張れっていう言葉で頑張ってきたんだ。その言葉が好きで、ちょっと真由に言って貰いたかっただけ」
「私でお役に立てるなら、いつでも頑張れっていうけど」
拓登は照れた風に笑っていたけど、ふと前を見据えた目がどこか寂しそうに遠くを見つめているようだった。
なぜか拓登には陰りが見えて、時々変な行動をするだけに、不思議だなと思う時がある。
そんな憂いな表情も様になってるだけにかっこいいとは思うが、そういうところも含めて真剣に見て欲しいと思っているのだろうか。
「どうしたの。僕をじっと見て」
「えっ、だって、真剣に見るって約束したから」
私もここは拓登の言葉を借りて言ってみた。
「そうだった。じゃあ、僕をしっかり見て」
またまじかに顔を寄せてくる。
一瞬びっくりして仰け反りそうになったけど、ここは踏ん張ってみた。
なんだかにらめっこしてる気分だった。
「ねぇ、もし僕が真由の頬にキスしたらどう思う?」
「えっ!」
一体何を言い出すのかと思って、驚きすぎて咄嗟に身を引いてしまった。
「やっぱりダメか」
妙に拓登ががっかりしていた。
それよりも、顔を近寄せて頬にキスとか言われたらびっくりするとか思わないのだろうか。
ドキドキと心臓が口から飛び出そうだった。
「あの、ちょっとそれは……」
「でも瑛太とは、そのアレだったんだろ」
「えっ、瑛太? あっ、あれはだから無理やりで、はっきり言って犯罪行為だと思う」
それは言わないで欲しかった。
過去の記憶も含め忘れたいと思っているのに、拓登に穿り返されるのは辛い。
「無理やりは犯罪行為か……」
拓登はその時苦笑いになっていた。
「私、瑛太とは本当に接点がなくて、なぜいきなり声を掛けられたのかも未だに不可解」
「あのさ、もしかしたら瑛太は真由の知らない事を知っていて、それを伝えようとしているって事は考えられない?」
「えっ、どういうこと?」
私が聞き返すと、拓登は私を見るも口をあけたままその後が言えず逡巡しているようだった。