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「倉持さん、僕も君のこと真由って呼んでもいい? もちろん僕のことも拓登って呼んで欲しい」
「えっ」
突然飛び出した山之内君の提案は、私の口を大きく開かせた。
私が学年一アイドルとなっている山之内君の名前を呼び捨てにする?
嘘!
私がびっくりしている側で、山之内君は攻撃的に真剣な眼差しを向けていた。
なんだか脅迫されている気分になりながら、それに弱々しく応じる。
「もちろん私の事は真由でいいけど、山之内君のことを呼び捨てにするのは抵抗が……」
「でも、さっきは瑛太のことすぐに呼び捨てにしてたけど」
「あれは腹が立ったからつい、名前を強く言わないと気がすまなくなって」
「瑛太だけ親しく名前を呼ばれるのは僕は納得できない。僕も拓登って呼ばれたい。僕のこと真剣に考えてくれるっていったじゃないか。まずは僕の名前をしっかりと呼んでみて」
なんだか、とんでもないような方向に行っているようで、私はついていけない気分だった。
すごく恥ずかしい気持ちを抱えながらとりあえず「拓登……」と弱く言ってみた。
名前を呼び捨てにすることで、余計にもじもじといらぬ力が体に入ってしまう。
そっと山之内君の様子を見れば、とりあえずはそれで満足したのか、表情が柔らかくなっていた。
「真由、ありがとう。僕は苗字よりも名前で呼ばれる方が好きなんだ。日本の習慣って、尊重する癖がついてるから、さんとか君とかまどろっこしいよね。真由の前だけでも、僕は素のままの自分でありたい」
早速自分の名前も呼び捨てになった。
名前を呼ばれるだけでもドキッとするのに、またさらりとドキドキするような事を言ってくれて、私はどう対応していいのかわからない。
傘を貸してからとんでもない方向に行っている。
真由って呼ばれるだけで、かなり昔から親しかったような錯覚を感じてしまうから、私もこの状況に酔いしれそう。
「真由、携帯かスマホ持ってる?」
高校に入学したお祝いにと父からスマートフォーンをプレゼントされた。
まだ使い方に慣れてないので使いこなせてないが、鞄からそっと出して見せた。
山之内君、いや、もう拓登と呼んだ方がいいのだろうか。
拓登はデニムのシャツの胸ポケットから同じようにスマートフォーンを出した。
そうなるとやることは一つだった。
お互いの電話番号とメールアドレスを交換する。
名前を呼び捨てにしてからまたどんどんと進んで行く。
「よし、これでOK」
OKという言い方も、非常に奇麗な発音に聞こえてかっこよさが引き立っていた。
私はまた拓登をみていた。
拓登も暗闇の中で、周りのかき集めた光に照らされて笑っていた。
幾分かリラックスした和らいだ表情だった。
私達が駅の前で立っていると、何度となく電車から降りてきた人が改札口を通ってすれ違って行く。
その度にじろじろ見られていたが、そんなことも気にならないほどに感覚が麻痺しているようだった。
その時、スマホから音楽が流れてくる。
その音に目が覚めるようにハッとさせられた。
拓登のスマホからだったので、拓登はすぐに反応して操作した。
私に悪いと思ったのか、すまなさそうな態度を見せて、背中を向けて遠慮がちに会話を始めた。
「今、駅の前。ああ、そうだ。わかった。後で電話する」
手っ取り早く済ませて、また私と向き合った。
「ごめん、ちょっと用事ができたんだ。ほんとは真由を家まで送りたいんだけど」
「気にしないで。それに誰か人と待ち合わせてたんでしょ。そっちを優先して」
「うん。それじゃまた明日学校で。今日は色々と真由にぶつけちゃって本当にごめん。でも言いたい事が言えて僕はよかった。これも瑛太が出てきたから僕は対抗して意地になってしまったかもしれない」
確かに瑛太の登場でかなり駒が進んだ。
全てが私にとってなんだか不自然に感じるほどの出来事だった。
ついていけなかったからそう思うのかもしれないが、それは拓登が望んだから無理やり補正されたように私が変えられただけなのかもしれない。
でも、拓登を真剣に考えるって約束してしまったけど、私はもうすでに考えているんだけど。
一体その後は何をどうするのだろう。
「やまの…… えっと、拓登、あの、学校ではやっぱりみんなの前だから、山之内君って呼んでいいよね」
「ダメだ」
「えっ、ダメ?」
「こういうのは一貫性がないと。真由、しっかりと僕を見てよ。約束しただろ。それから瑛太には惑わされないでほしい。それじゃ、ごめん、そろそろ行く。気をつけて帰ってよ。また明日学校で」
慌てている拓登に流されるまま、私は頼りなく手を振って別れの挨拶をした。
拓登は自転車を手にして跨ると、私を一度見て微笑んでからすーっと暗闇の中へと向かっていった。
私はあまりにも非現実的な事を味わって、夢を見ているように、拓登の背中が暗闇に突っ込んで小さくなっていくのをぼんやりと目に映していた。
あっと言う間に遠くへいって、薄っすらとした影も点となってとうとう消えていった。
夢見心地でふわふわとして、足が地についてない感覚でうちへ帰るが、次の日学校で拓登と出会ったときどんな顔をすればいいのかと思うと、突然現実に引き戻されてはっとした。
私が拓登と呼べば、目立つこと間違いない。
仲が良くなったことをアピールするわけではないが、そんなところを見てしまえば女の子達の反感を買うのが容易に推測できる。
そう思うと、学校ではできるだけ接触しないようにとつい逃げる事を考えていた。
「倉持さん、僕も君のこと真由って呼んでもいい? もちろん僕のことも拓登って呼んで欲しい」
「えっ」
突然飛び出した山之内君の提案は、私の口を大きく開かせた。
私が学年一アイドルとなっている山之内君の名前を呼び捨てにする?
嘘!
私がびっくりしている側で、山之内君は攻撃的に真剣な眼差しを向けていた。
なんだか脅迫されている気分になりながら、それに弱々しく応じる。
「もちろん私の事は真由でいいけど、山之内君のことを呼び捨てにするのは抵抗が……」
「でも、さっきは瑛太のことすぐに呼び捨てにしてたけど」
「あれは腹が立ったからつい、名前を強く言わないと気がすまなくなって」
「瑛太だけ親しく名前を呼ばれるのは僕は納得できない。僕も拓登って呼ばれたい。僕のこと真剣に考えてくれるっていったじゃないか。まずは僕の名前をしっかりと呼んでみて」
なんだか、とんでもないような方向に行っているようで、私はついていけない気分だった。
すごく恥ずかしい気持ちを抱えながらとりあえず「拓登……」と弱く言ってみた。
名前を呼び捨てにすることで、余計にもじもじといらぬ力が体に入ってしまう。
そっと山之内君の様子を見れば、とりあえずはそれで満足したのか、表情が柔らかくなっていた。
「真由、ありがとう。僕は苗字よりも名前で呼ばれる方が好きなんだ。日本の習慣って、尊重する癖がついてるから、さんとか君とかまどろっこしいよね。真由の前だけでも、僕は素のままの自分でありたい」
早速自分の名前も呼び捨てになった。
名前を呼ばれるだけでもドキッとするのに、またさらりとドキドキするような事を言ってくれて、私はどう対応していいのかわからない。
傘を貸してからとんでもない方向に行っている。
真由って呼ばれるだけで、かなり昔から親しかったような錯覚を感じてしまうから、私もこの状況に酔いしれそう。
「真由、携帯かスマホ持ってる?」
高校に入学したお祝いにと父からスマートフォーンをプレゼントされた。
まだ使い方に慣れてないので使いこなせてないが、鞄からそっと出して見せた。
山之内君、いや、もう拓登と呼んだ方がいいのだろうか。
拓登はデニムのシャツの胸ポケットから同じようにスマートフォーンを出した。
そうなるとやることは一つだった。
お互いの電話番号とメールアドレスを交換する。
名前を呼び捨てにしてからまたどんどんと進んで行く。
「よし、これでOK」
OKという言い方も、非常に奇麗な発音に聞こえてかっこよさが引き立っていた。
私はまた拓登をみていた。
拓登も暗闇の中で、周りのかき集めた光に照らされて笑っていた。
幾分かリラックスした和らいだ表情だった。
私達が駅の前で立っていると、何度となく電車から降りてきた人が改札口を通ってすれ違って行く。
その度にじろじろ見られていたが、そんなことも気にならないほどに感覚が麻痺しているようだった。
その時、スマホから音楽が流れてくる。
その音に目が覚めるようにハッとさせられた。
拓登のスマホからだったので、拓登はすぐに反応して操作した。
私に悪いと思ったのか、すまなさそうな態度を見せて、背中を向けて遠慮がちに会話を始めた。
「今、駅の前。ああ、そうだ。わかった。後で電話する」
手っ取り早く済ませて、また私と向き合った。
「ごめん、ちょっと用事ができたんだ。ほんとは真由を家まで送りたいんだけど」
「気にしないで。それに誰か人と待ち合わせてたんでしょ。そっちを優先して」
「うん。それじゃまた明日学校で。今日は色々と真由にぶつけちゃって本当にごめん。でも言いたい事が言えて僕はよかった。これも瑛太が出てきたから僕は対抗して意地になってしまったかもしれない」
確かに瑛太の登場でかなり駒が進んだ。
全てが私にとってなんだか不自然に感じるほどの出来事だった。
ついていけなかったからそう思うのかもしれないが、それは拓登が望んだから無理やり補正されたように私が変えられただけなのかもしれない。
でも、拓登を真剣に考えるって約束してしまったけど、私はもうすでに考えているんだけど。
一体その後は何をどうするのだろう。
「やまの…… えっと、拓登、あの、学校ではやっぱりみんなの前だから、山之内君って呼んでいいよね」
「ダメだ」
「えっ、ダメ?」
「こういうのは一貫性がないと。真由、しっかりと僕を見てよ。約束しただろ。それから瑛太には惑わされないでほしい。それじゃ、ごめん、そろそろ行く。気をつけて帰ってよ。また明日学校で」
慌てている拓登に流されるまま、私は頼りなく手を振って別れの挨拶をした。
拓登は自転車を手にして跨ると、私を一度見て微笑んでからすーっと暗闇の中へと向かっていった。
私はあまりにも非現実的な事を味わって、夢を見ているように、拓登の背中が暗闇に突っ込んで小さくなっていくのをぼんやりと目に映していた。
あっと言う間に遠くへいって、薄っすらとした影も点となってとうとう消えていった。
夢見心地でふわふわとして、足が地についてない感覚でうちへ帰るが、次の日学校で拓登と出会ったときどんな顔をすればいいのかと思うと、突然現実に引き戻されてはっとした。
私が拓登と呼べば、目立つこと間違いない。
仲が良くなったことをアピールするわけではないが、そんなところを見てしまえば女の子達の反感を買うのが容易に推測できる。
そう思うと、学校ではできるだけ接触しないようにとつい逃げる事を考えていた。