「ねえねえ、ルラ!」
「トルイくん、なに?」
「ルラ、好きな人いる?」
「はい!?」
「オレとか、どうかな?」
「ちょい待ち、AIがいっちょまえにナンパしないでよ!」
「人種が違ったって、別にいいじゃん」
「人種以上に何か大事なものが違うと思うんですけどっ」
「オレ、将来有望なんだよ? 蒼狼族は、財産が末子相続なんだ。つまり、父上の軍隊やお宝はオレが引き継ぐの。兄上たちは独立して自力で財産を作らなきゃいけないけど、オレだけは特別♪ 今回のアルチュフ攻めでも、オレだけ父上の本軍にいるでしょ?」
 なるほど、道理でおにいさんたちは別行動なんだ。西軍として先行したって聞いた。
 そうこうしながら、行軍が続く。荒れた草原が印象を変え始めた。行く手に大きな川が流れている。草の緑色が濃くなった。やがて、チンギスさんの本軍は、川のほとりで宿泊することになった。
 異変に最初に気付いたのは、シャリンさんだった。
「水の中に何かがいるわ」
 透き通った水面に、コポコポと泡が立ってる。水中で何かが息を漏らしてるみたいだ。
「バトル、来ますかね?」
「ボスじゃないかしら」
 その瞬間、パラメータボックスに警告が出て、バトルモードに突入した。
 ふわっと魔力の風が起こる。ニコルさんが早速、水面へと杖を突き出して魔法を発動した。
 “賢者索敵”
 パラメータボックスに敵の情報が表示される。
 水竜、ジャオ。このエリアに古くからいる水の主。凶暴で、武力の匂いがするところに現れる。竜の端くれだけあってデカいし、ヒットポイントと防御力が異常に高い。
 水面にジャオの巨大な影が見えた。ゴポゴポと、気泡が噴き上がる。
 トルイくんが駆け寄ってきた。真剣な顔をして水面をにらむ。そして、喉をのけぞらせて、一声。
 アォォォオオンッ!
 狼の遠吠え。トルイくんは兵士たちに向き直った。
「オマエたちは退避しろ! ジャオは普通の武器では攻撃できない。オレたち蒼き狼の爪と牙と弓矢、あるいは異世界の戦士の魔力がなければ、ヤツは倒せない! アルチュフと戦うまで、オマエたち兵士は死んじゃいけない。退避しろ!」
 兵士たちが水辺から離れる。チンギスさんが先導するから、パニックが起きない。
 シャリンさんが小さく舌打ちした。
「あの様子じゃ、チンギスはバトルに加わらないのね」
 トルイくんが、にこっとした。
「オレは戦うよ? 力を貸すから頼りにしてよ!」