「お世話になったっす、ルイ……じゃなかった湯島先生! 本物のナオミちゃんと会話できないまま死に別れたのが心残りっすけど、おかげで立ち直れたっす!」
キヨシは早朝、保健室のルイを尋ねた。
心の靄はわだかまっているが、顔色も体調もすこぶる良好だ。
朝の準備に追われていたルイは、キヨシの闖入に唇を尖らせたものの、しぶしぶ会話に応じてくれた。
「別に~、私は教師として当然のことをしたまでよ? お兄ちゃんと一緒に課外活動できたし~。お兄ちゃん超かっこよかったでしょ? 眼福、眼福~!」
「それが本音っすか……俺の救済はついでだったと……?」
「えへへ~バレた?」
ぺろりと舌を出すルイがお茶目で、今いち憎めない。美人は得である。
「で、そのナミダ先生はどこっすか? 相談室は無人だったんすけど」
「お兄ちゃんは週イチしか出勤しないって言ったでしょ~?」
ナミダの本職は大学講師である。残念だが今日は会えそうにない。
「んじゃ来週、改めて礼を言いに来るっす。常識破りなカウンセラーでしたけど、俺にぴったりの荒療治だったっすよ!」
「んふふ~、お兄ちゃんの偉大さが判った?」我がことのように胸を張るルイ。「また何かあれば相談に来てね~? 友達を誘ってもい~わよ。みんなのスクールライフを守るためにカウンセリングがあるんだから! あるある~……お兄ちゃんの真似」
高校生活の影に、湯島兄妹あり。
彼らは保健室で、はたまた心理相談室で、悩める子羊に救いの手を差し伸べている。
――了