俺は昨日、女に振られた。
「な、なぁハルミちゃん――」
昨日、俺は駅近くの桜並木を下校中、一人の女子高生に気付いて話しかけた。
けど、彼女は俺を素通りする。無視かよ。何だよ。どういう了見だよ。
茶髪のロン毛、派手な厚化粧と付け睫毛、着崩した学生服にネイルアート……ひときわ目立つ彼女は、俺なんか眼中にないらしい。
俺はショックで立ち尽くしたが、暫時あって気を取り直し、何とか駅へ歩を進めた。
駅までの距離は、ほんの数分だ。舞い散る桜が鬱陶しい。この花びらと同様、俺の春も儚く散ったわけだ。くるくると花びらが目の前を踊っている。俺をからかうように。
手で払うと、左手に枝分かれした細い脇道へ流れて行く。
ん? こんな所に脇道なんかあったのか。
俺は何となく、そちらへ目をやった。雑居ビルに挟まれた陽光の届かない路地裏だ。昼なお暗き街の死角。
その奥地で――俺は花びらに導かれるように、異物を発見した。
何かが横たわっている。
「何だ?」
俺は恐る恐る、脇道の闇を覗き込む。
あれは、人間だ。女の子。まだ若い。学生服を着ている。舞い散る桜に囲まれながら、頭から血を流し、白目を剥いている。
え、あれって――?
(ハルミちゃんだ! 死んでるのか? 今しがた元気に歩いてたのに!?)
死体のそばには、雑居ビルの裏口に外付けされた古い非常階段が天高く伸びていた。
――非常階段から転落したのか?
でも、なんで――?
俺は昨日、女に振られた。
ついでに振られた子の死体まで発見した。
*