私が飯田君に声を掛けると、飯田君は少し顔をこわばらせた。たぶん私と一緒にいる人たちの一人が遠野君だったからだろう。

「一昨日、飯田君はトイレに行って交流給食に遅れたでしょ? あのとき、どういう行動だったか教えてくれない?」
「一昨日?」

 飯田君は私の質問が予想外だったようで、困惑顔だ。
これはとても大事なことなのだと私が伝えると、腕を組んで一昨日のことを思いだしながらぽつりぽつりと話し始めたてくれた。

「あの日は、学年交流給食だっただろ? だから、教室から牧多と移動したんだ」

 飯田君の言葉に隣にいた牧多君もそれを聞いて頷いている。

「体育館に行く渡り廊下の手前で急にトイレに行きたくなってさ。途中で通る中で一番近いのが本棟の1階のトイレだったから、そこで牧多と別れてそこのトイレに行ったよ。付き合わせて遅れさせたら悪いから牧多にはさきに体育館に行ってもらった。トイレが終わったらすぐに体育館に行ったから、はじまりの挨拶の途中で席についたよ」

「それで間違いない?」と私は牧多君にも確認をとる。牧多君は「間違いないよ。俺の1、2分遅れくらいで飯田は体育館に来た」と頷いた。

「うん。飯田君ははじめの挨拶の最後に体育館の後ろからこそこそ入ってきていたのは私も覚えているよ」と朋ちゃんも言った。

 体育館は校舎の本棟から一度外に出て、砂走の渡り廊下を渡った先にある。そして、5年2組の教室は本棟の3階の一番奥だ。

 つまり、飯田君が犯人の場合、飯田君は本棟の出口まで友達と行き、そこで別れて5年2組の教室まで戻り、草壁君の鞄を漁ってバトマジカードを探し出して盗り、友達の2分遅れで体育館に現れたということになる。

「無理ね……」

 私は小さな声で呟いた。
 物理的にどう考えても無理だ。これで飯田君犯人説も消えた。私達は飯田君に「ありがとう」と告げて、その場を離れた。

「どういうことなの?」

 私は眉を寄せる。犯人がいない。これではやっぱり一番怪しいのは遠野君だ。

「遠野君。あなたやっぱり……」

 私が遠野君に向き直ってそう言いかけたところで遠野君は焦って「俺は違う!」と否定してきた。

「でも、この状況じゃ一番怪しいよ。給食の後に何をしていたのか話してくれる?」