「これでそろったかな。そろそろ時間だし、始めようか」

みんなが椅子を引いて背筋を伸ばす。
「一年生と二年生から各クラス一名ずつだから……」
先生は手にした名簿と目の前の僕たちを交互に見る。
「あれ、ひとり足りないか?」

僕たちもなんとなく顔を見合わせるものの、みんな初対面だし、だれがいないかなんてわからなかった。
そのときだ。

「遅れてすみません」
わずかに開いた入り口扉の隙間から、ひとりの女の子が入ってきた。

あ……。
見覚えのある顔だった。
いや、見覚えどころではない。その子の姿は僕の脳裏に鮮やかに記憶されていた。

ちょうど先ほど、教室のベランダから訝しい視線を送ってしまった例の彼女だったから。

「ああ、よかった、これでちょうど集まったかな。じゃあ、ここに座って」
先生に手招きされて、彼女は指定された席に着いた。

先ほどは遠目に眺めただけで僕の目は釘づけになってしまった。
それが今はどうだ。テーブルを挟んで、彼女は僕の斜向(はす)かいにいる。しかも先生のほうに体を向けているため、後方に座る僕には気づいていないようだ。

それをいいことに、僕はまたしても彼女を盗み見てしまった。
色白の肌に長いまつげ、サイドの髪は前下がりにほおに沿って伸びている。前髪は外から差し込む陽光に透けて栗色に輝いていた。

女子はみんな、冬服として指定されている紺のベストを着ている。この制服はもともと落ち着いた印象を醸している。彼女が身にまとうと、いっそう清楚に見えた。

彼女は愛嬌を感じる温和な表情を浮かべながら、ピンと背筋を伸ばして座っている。

「こんにちは。今日はよく集まってくれたね」