自然と深いため息がもれた。
「ヤッホー!」
「キャー!」

そのとき、教室内で嬌声(きょうせい)が湧いた。なんだろうと、ベランダから中を覗く。

別のクラスから数名のグループがやってきたようだ。
気軽に挨拶を交わし、大きな声で笑い合っている。何人か男子も混じっていた。もともと同じ中学なのか、友達の友達という感じでつながっているのかもしれない。

でもみんな自然体で、制服もカッコよく着こなしている。気を張って高校デビューしたというよりは、もともとイケてる部類が集まっているようにも見えた。一言でいえば、彼らは洗練されているのだ。

なかでも、入ってきたグループのうちの一人――
とある女子に目が留まった。

大きな瞳に長いまつげ、髪はちょうど、襟足に届くくらい。肌は透き通るように白い。

輪の中で、彼女は一際キラキラと輝いて見えた。みんなを主導するタイプでも周りに媚びを売るタイプでもなく、自然と人が彼女のまわりに集まっていくような感じだった。

よく観察していると、取り巻く男子たちも時折チラチラと彼女の横顔を窺っている。

それはそうだよな。あれだけかわいいんだから、みんな放ってはおかないだろう。
そんなことをぼんやりと思ったとき……。

ふいに、彼女と目が合った。

教室内で多くの人に囲まれている彼女と、窓ガラスの外、ベランダにいる僕。
あまりに見つめ過ぎたせいで、僕の視線に気づいたのかもしれない。
見開かれた瞳には驚きの色がにじんでいた。まるで、幽霊でも見たかのように。

僕はあわてて背を向け、ベランダの欄干を握りしめた。
……最悪だ。
大きな声で叫びたくなった。

教室で盛り上がっている集団の中の女子を、ベランダからじっと見据える根暗な男子。ストーカーとかキモイとか、そんなレッテルを貼られかねない。実際、誤解だとは言い逃れできないシチュエーションでもある。
そもそも彼女のような子は、スクールカーストでは上位に位置するような子だろう。