ひと気がなくなるのを待つように、自分の席でノロノロと荷物をまとめていた。

教室を見渡せば、早速帰宅する生徒もいる。ただしそういう生徒は、僕と同じように集団行動が苦手なやつばかり。

放課後を自由に満喫したいという女子たちは、いくつかのグループを作ってそのまま教室に残り、楽しげに笑いあっていた。僕はまだだれとも話したことがないので、名前も全然わからない。

高いコミュニケーション能力をもつ人には感服する。あっという間に友人ネットワークを作り上げて、それぞれがしっかりと自分の位置を確立している。

気づくと、教室内にひとりでいるのは僕だけだった。
なんとなく、気まずさを覚える。
別に訳もなく残っているのではなく、とある集まりに向かうまでの時間つぶしをしていただけなのに……。

「あの男子だれだっけ」
「なんで、いつまでもひとりで残っているんだろうね」

そんなヒソヒソ話の対象にされてはたまらない。
僕はゆっくりと席を立つと、教室後方のドアからベランダに出た。

ここは校舎の四階。
高校そのものが広大な台地の上にあるため、見晴らしは抜群にいい。
雲ひとつない快晴。広がる街並みの先に遠州灘(えんしゅうなだ)が見渡せた。

正門の先に伸びるなだらかな坂道には、薄桃色のトンネル。まるで僕たち新入生の門出を祝福するかのように、満開に咲き誇る桜並木が続いていた。やわらかく吹き抜ける風に、無数の花びらがひらひらと降り注ぐ。

視線を下ろすと、ちょうど昇降口の辺りから生徒たちが散っていくのが見えた。その脇ではハナミズキが、枝先にいまにもほころびそうな大きな蕾をつけている。

でも、僕にとっては、肌をなでる涼しげなそよ風さえも億劫に感じた。綺麗なはずの景色なのに、僕の心は動かされない。ただ漠然と、これからの高校生活に不安を覚える。

今日の放課後は委員会の初めての集まりがあった。
さっさと向かえばいいのに、早く着きすぎて知らない子たちと同じ空間で話が続かなかったらどうしよう……なんてちっぽけな心配をし続けて、結局時間ギリギリまで教室にとどまっている。僕はそういう人間なんだ。