──眠りが深かったのか、夢は見なかった。
 目覚めるとミヅハの姿は見当たらず、『仕事に出てくる』というメモだけが畳の上に置かれていた。
 きっと、ほとんど眠らずに仕事に出るはずだ。
 今日、私はお休みなので、せめて午前中だけでも私が出勤して代わり、ミヅハに休んでもらおうと着替えを済ませて彼の部屋を訪ねようとしたのだが。

「中抜けで仮眠をとるから問題ない。それよりも今、昨夜のことを瀬織津姫に相談してきたんだが、いつきを呼んで来いと言付かった」

 廊下で鉢合わせたミヅハに断られ、母様からの伝言を受けた私は仕方なく諦めて頷く。

「わかった。あの、昨夜は本当にありがとう」
「いや、礼は必要ない。むしろ、責められるべきだろう」

 後ろ向きな言葉に、ミヅハってドMだったの?という冗談が一瞬浮かんだけれど、目の前に立つ彼の表情が至極真面目なものなので空気を読んで自重した。

 ミヅハはまだ僅かに赤味を帯びる自分の手を見る。

「俺が寝てしまったせいで邪気がいつきに何かしたのなら、感謝などされる立場にはない」
「ここは神域だよ? 何もないと安心してて当然だわ」

 仮にミヅハが起きていたとしても、寒気を感じてから消えるまではほんのわずかな時間だった。
 何より、邪気がどこから侵入したのかさえわからないのだ。
 誰も起きてこなかったことから、感知できたのも私とミヅハだけだったのだろう。