最初にめまいを起こした際、白昼夢にて見た、私ではない”私”の名を呼ぼうとした彼。
カンちゃんと大角さんに似た人が出てきた夢で、”私”が会いたいと恋願っていた彼。
そして、今さっきまで見ていた夢の中、河童を助け、家に案内する帰路で”私”に手を振る幼馴染の彼。
もし、三つの夢に登場する”私”が全て同じ”私”であり、”彼”も同じ人物であるならば。
「”私”は誰で、”彼”は……誰?」
独り言ちて、ふと脳裏に蘇るカンちゃんとの会話。
『龍芳って、誰?』
『ふるーいふるーいオレの友人さ』
『ミヅハに似てるの?』
『ああ、似てる。だからさっき、うっかり間違えて呼んじまった。懐かしーいあいつの名前を』
瞼を開き、ミヅハを見つめる。
カンちゃんの語った古い友人が、もしも夢の中の”彼”であったとしたら。
“彼”の名前は……。
「龍芳……?」
似ているというミヅハに向けて、龍芳の名をそっと唇に乗せた刹那、胸の内に様々な感情が溢れた。
喜びに踊り、切なく疼き、無念に嘆き、愛しさに震える。
それらがごちゃ混ぜになり、双眸から大粒の涙がボロボロと零れ落ちた。
突如として流れ始めた涙は驚く私の感情を無視したように止まらない。
「な、なに、これ、なんでこんなに。おかしいな」
自分ではない自分が泣いている。
そんな感覚にわけもわからず戸惑いながら、体を起こして必死に着物の袖で涙を拭っていた時だ。
ゾクリと、背筋に冷たいものが走って呼吸を忘れる。
ねっとりと纏わりつき、身も心も凍てつかせてしまうようなそれは、妖邪に遭遇した際に感じるものと同様の寒気。
眠っていたミヅハも感知したのか、パチリと目を覚ますと素早く起き上がり、警戒するように目を鋭く細めて辺りを見回した。