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「……つ、……さ」

 絞り出すような自分の声で目を覚ます。

 今、私はなんと言ったのか。
 ゆっくりと息を吸って、一度だけ瞬く。

 辺りは静寂に包まれており、窓がピッチリと閉まった部屋に川の水音など聞こえない。
 今しがたまで広がっていたはずの光景はどこにもなく、見えるのは木目の走った自室の天井のみだ。
 室内は暗く、まだ夜なのだとわかる。
 カチカチと時を刻む枕元に置いた目覚まし時計の針は、真夜中の二時を回って間もない。
 もうひと眠りすべきか悩み、そういえば私はいつの間に布団に入ったのだろうと疑問に思ったところで、傍らに人影があることに気付き、私は驚きに身体を震わせ布団をかぶった。
 叫びそうになった声をかろうじて飲み込み、そっと布団をずらすと目を凝らして相手を確認する。
 眠っているのか、俯いた体勢で座り、こくりこくりと船を漕いでいるのはミヅハだ。
 なんだミヅハか……と安堵したのも束の間。
 いやなんでミヅハがいるのかと、再び慌て、勢いよく上体を起こした。

 一体、彼はいつからここにいたのだろう。
 良く見れば彼の纏う着物は宿の仕事着だ。
 そして、私が来ているのも寝巻ではなく仕事用の着物だった。
 帯は外され、腰紐も緩められているものの、少し動きづらさがあったのはこのせいかと納得する。