私が苦しんでいるとは、一体いつの話か。
事故の後、ひとり残されてしまったことを悲しんでいたことくらいしか思い浮かばない。
それにしても、酒に弱いと自分でわかっているくせになぜ飲むのだろう。
「ごめんなぁ、姫さん。龍芳も、ごめんなぁ」
──龍芳。
カンちゃんがその名を紡いだ刹那、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
思わず、は……と息を逃して苦しさ紛らわす。
龍芳と呼ぶカンちゃんの手は、ミヅハの肩を二度叩いた。
「……干汰、俺はミヅハだ。龍芳じゃない」
ミヅハは長い睫毛を伏せて頬に影を落とし、カンちゃんの手をそっと肩から離して立ち上がる。
「朝霧から茶をもらってくる。それ以上飲むなよ」
カンちゃんの瞳がぼんやりとミヅハの背を追い、ふと私を捉えたかと思うと苦笑した。
聞こえてくる神楽の音色に、カンちゃんの声が重なる。
「オレにとっては同じなんだけどな」
肩をすくめて深く息を吐くと、カンちゃんはキュウリを食べきってから「よっ」と勢いをつけて腰を上げた。
一瞬ふらつくも倒れることはなく、私の頭を大きな手でくしゃりと撫でる。
「邪魔して悪かったな」
「……ね、カンちゃん」
去っていこうとするカンちゃんを引き止めると、彼は「ん?」と瞬いて私を見下ろす。