心臓が早鐘を打ち続ける中、何か話をと思うも上手く言葉を紡ぐこともできず、呼吸さえ忘れそうになった時だ。

「いよーぅ、おふたりさん! ふたりでじ~っと見つめ合って、もしかして、もしかするのか? ん? んー?」

 おつまみのキュウリを手にオヤジ化したカンちゃんが、私たちの間にどかっと勢いよく座った。
 「んー?」を連呼しながら私とミヅハ、交互に顔を近づける。
 その際、強いアルコールの香りがして、私は思わず体を後ろに引いて鼻をつまんだ。

「カンちゃん、お酒臭っ!」
「姫さん、オレはさ、あんたがいてくれたから人を好きになれたんだよ」
「誰だ干汰に酒出したのは」
「あの時、怪我をして動けなかったオレを助けてくれて、ほんっっっとうに感謝してる」

 ミヅハが眉をひそめる中、ありがとな、と私の肩をバンバン叩くカンちゃん。
 地味に痛いが感謝されている私は、カンちゃんが何を言っているのか皆目見当がつかず、眉を寄せてしまう。

 怪我を負ったカンちゃんを助けたことがあっただろうか?

 カンちゃんと初めて会ったのは、天のいわ屋に引き取られた際だと記憶しているけれど、もしやそれよりもっと前の出来事なのではと考える。
 しかし五歳より前となると、時間も大分経っている為に覚えていることは少ない。
 怪我をした彼を助けたとあれば、それなりに強く心に残っていそうなのに。
 もしかしたら、酔っているせいで別の人との間にあった記憶と混ざってしまったのかもしれないと考えている間にも、カンちゃんは話を続ける。

「なのに、オレときたら苦しんでる姫さんを助けてやることができなくて……」
「あの、カンちゃん?」