天宇受売様の舞を眺める猿田彦様の横顔も幸せそうだ。
 口元しか見えないけれど、微笑んでいるから八割くらいは間違いないと思う。

 やがて演奏が止み、天宇受売様の纏う羽衣がふわりと地に落ちると一斉に拍手が送られた。
 湯呑を置いた私も、皆に負けじと両手を何度も叩き合わせる。
 天宇受売様は「ありがとう!」と私たちに手を振ってから、猿田彦様の元へと踏み出した。
 迎える猿田彦様の口元はとてもともて満足そうに口元を綻ばせ、「やはりあなたの舞は僕を癒してくれます。ありがとう」と、愛し気な声で伝える。
 はにかんで夫に抱き付く天宇受売様。
 仲睦まじいおふたりの姿に、私まで頬が緩んでしまう。

「素敵な夫婦だね」

 思いやりを持ち合い、笑みを交し合い、互いに互いが唯一なのだとわかるふたりは、私にとって理想の夫婦像かもしれない。
 そう思ってなんとなく言葉にすれば、隣で静かにお茶を飲むミヅハが「いつき」と私を呼んだ。

「ん?」
「俺は、須佐之男さんじゃない」
「ん? うん。そう……だね?」

 なぜいきなり須佐之男様で、当たり前のことを言っているのか。
 ミヅハはミヅハで須佐之男様ではないことくらい知っている。
 何が言いたいのか見当もつかずにいる私に、彼はさらに続ける。

「婚姻を結ぶのはひとりでいい。他の者を娶りはしない」

 その言葉で、ようやく気付く。
 心から想い合っている猿田彦様と天宇受売様のふたりを、私が素敵だと口にしたからだ。