──ゆったりとした太鼓のリズムに合わせ、神楽笛の落ち着いた深みのある音色が、幻想的な庭園に響き渡る。
空にあった青さはすっかりと夜の色に姿を変え、普段は灯篭の灯りのみに照らされている天河の間の庭園にはキャンドルの火が揺れている。
開いた番傘の後ろで燃える炎は、それぞれの色とデザインを際立たせ、衝立は夕星さんの狐火を灯す燭台のおかげで、美しい姿で佇み、優雅に舞う天宇受売様の魅力を一層際立たせていた。
「綺麗……」
濡縁に腰掛け感嘆の吐息を漏らす私の隣に、そっとミヅハが座る。
「お疲れさま。母様は?」
母様を呼びにいっていたミヅハに訊ねると、彼はゆるりと頭を振った。
「来客があるから遠慮するそうだ」
「来客? こんな時間から?」
そろそろ二十一時を回る時刻だ。
夕食の片付けも落ち着き、宿の業務はフロントを残すのみ。
故に、猿田彦様と天宇受売様から招待を受けた従業員は皆、この天河の間に集まっているのだ。
編み込んだ長い髪に紫陽花を飾り、軽やかに舞う天宇受売様を見つめながら、母様に来客とは一体誰なのかと首を傾げる。
こんな時間だ。
近しい間柄の相手が、見舞いに訪れるのかもしれない。
ともかく邪魔はしないようにして、明朝、母様に誰が来ていたのか聞けばいいだろう。
今は天宇受売様の舞を堪能しなければもったいない。