三つの大きく丸いガラス鉢に詰まった白と青の紫陽花。
風鈴を彷彿とさせるそれは涼し気で、開いて並ぶ番傘との相性も考えて配置した。
銀の花びらが散る薄紫色の衝立は、まだ夕星さんの狐火に照らされてはいないけれど、太陽の下にあっても華やかさは失われておらず、紫陽花との色合いもいい……のではと思い、用意したのだが。
「ど、どうでしょうか?」
夜が訪れるとキャンドルに明かりが灯させれてまた景色も変わるが、昼の庭園も果たして気に入ってもらえているだろうかと、胸の前で祈るように合わせた手に力をこめた。
猿田彦様と天宇受売様は数歩踏み出し、揃って濡縁に立たれる。
そして、天宇受売様が瞳を輝かせて私を見た。
「すっっっっごく素敵っ!」
興奮した声で褒めた天宇受売様の隣で、猿田彦様も喜びに満ちた瞳をミヅハに向ける。
「こんなに飾っていただいて、皆さん大変だったでしょう」
「お気になさらず。心ゆくまで堪能し、寛いでいただければ幸いです」
天のいわ屋の若旦那らしく、おもてなしの心を第一に答えるミヅハに猿田彦様は「ありがとうございます」と眦を下げた。
「ねえねえ、若旦那。この庭園って誰のアイデアなの?」
「いつきです。猿田彦様は、暁天の間の庭園で天宇受売様の舞を鑑賞するのを、毎回楽しみにしているからと」
ミヅハが答えると、天宇受売様は私の両手を、その華奢で美しい手で感極まったように包む。
「こんなに素敵な庭園で舞えるなんて嬉しい! ありがとね、いつきちゃん」
天宇受売様の花が咲く如く可愛らしい笑顔が間近に迫る。
手放しで褒められて面映ゆく感じながらも、気に入ってもらえことに胸を撫で下ろした。
「喜んでいただけて、私も嬉しいです」
「いつもは人の願いを叶えるばかりの私たちだけど、今回は人であるあなたがこうして私たちのためにアイデアを出して、疲れを癒したいという願いを叶えてくれた。本当に嬉しいわ」
「では、僕らにとっては、いつきさんは神様ですね」
「ええっ!?」
「そうね! フフッ。ねぇ、いつき様。庭園のお礼に、どうぞ今宵、私の舞を見にきてはくれませんか?」
かしこまった口調でいいながら、天宇受売様はまるで舞うような所作で膝を曲げて頭を下げる。