「どうぞお入りください」

 天河の間の部屋は、暁天の間の間取りとほぼ同じだ。
 露天風呂や洗面所などの配置は違えど、広さは変わらない。
 小さな台所と冷蔵庫が設置されている六畳の踏み込みを抜ければ、畳の香りが広がる十畳の和室がふたつと、二畳ほどの書室がひとつ。

 天宇受売様は「本当にこっちの部屋も暁天の間と変わらないんだね」と笑顔を見せたところで、あえて閉めておいた庭園へと続く窓のカーテンに気付いた。

「この奥が庭園だよね?」

 問われて、いよいよこの時がきたのだと、私は緊張しつつ頷いてみせる。

「わあっ、猿田彦くん、見てみようよ!」
「は、はい」

 無邪気な天宇受売様に促され、猿田彦様も期待に満ちた笑みを零した。

 浴衣やタオルなどを収納した押し入れの前に、預かっていた猿田彦夫妻の荷物を置いたミヅハがカーテンの前に立つ。
 どうやら手伝ってくれるようで、私が左側のカーテンに手をかけると、ミヅハは右側のカーテンに手を添えた。
 そうして頷き合うと、同時にカーテンを引いて開ける。

 ふたつの和室に沿って伸びる濡縁の奥、広がる庭園の景色を目にしたおふたりは目を見張った。