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「いらっしゃいませ、猿田彦様、天宇受売様。お待ちしておりました」

 ミヅハの凛とした声が、二柱の神を迎える。
 天のいわ屋の玄関口で、ミヅハと夕星さんと共に並ぶ私は頭を垂れた。

 庭園の改造が終わり、天河の間の支度が全て整ったのは、おふたりのチェックイン予定時刻十分前。
 間に合ったことに安堵するも、部屋を気に入ってもらえるかという不安と緊張感は胸に残ったままだ。

 天宇受売様が、アイドルの如く可愛らしい顔に笑顔を浮かべる。

「こんにちは~。あれ? 瀬織津姫は?」

 いつもは女将である母様もお客様を迎えるため、共に立っていないことを不思議に思ったのか、天宇受売様は人差し指を頬に添えて首を傾げた。
 ミヅハが「女将は暫く休みをいただいています」と伝えると、どこかで耳にしていたようで「体調が思わしくないらしいって聞いてたけど、心配ね、猿田彦くん」と天宇受売様が眉を下げた。

 彼女の隣に立つ猿田彦様は、長い鼻をつけた赤い半面のお面を被っている。
 一見すると天狗のようなその面は、人見知りが激しく臆病な性格ゆえにつけているのだとか。
 それでも、以前よりかはマシになったと教えてくれたのは母様だ。