平安時代の貴族が住むような屋敷で、月夜の晩に十二単を纏う私が泣いていたこと。
 その傍らに、カンちゃんと大角さんが座っていて……。

『姫さん、そんなに泣くなよ』
『ここはそんなに辛いか』

 そう言って、私の気持ちに寄り添おうとしてくれていたこと。
 そして……。

「私が言うの。”広い部屋も、立派な着物も、豪華な食事もいらないから、村に帰りたい”って。”会いたい”って恋しがるの」

 言葉にすると、途端に胸が切なく締め付けられた。
 ただの夢なのに、まるで私が本当に会いたいと求めているような感覚。
 たまらずにハ、と息を吐いたところで、ふたりが目を見張って私を見ていることに気付いた。

「な、なに? どうかした?」

 まさかそんな反応が返って来るとは予想もしておらず戸惑って聞くと、カンちゃんは瞳を忙しなく揺らす。

「いや……なんつーか、なぁ、大角」
「……今までに、そのような夢を見たことは?」

 助けを求めるようにカンちゃんに視線を送られた大角さんから、またも予想外な質問を受けて、私は頭を振った。

「ない……あ、この前倒れた時に、男の人は見たかな」

 シルエットのみだけれど、月を背にこちらへと手を伸ばす”彼”。
 その”彼”のことを、私ではない”私”が知っているような不思議な感覚があったと、正直に話した。
 するとまた、カンちゃんと大角さんは眉を少しだけ寄せる。

「姫さん……その話、若旦那には?」
「ニャッ! 干汰、待て」

 大角さんは興奮するとニャという鳴き声が出てしまう体質だ。
 久しぶりに聞いたが、今回は「おい!」というところだろうか。