ミヅハが天河の間から出て行くと、入れ替わりで大きなガラス鉢を手に抱えたカンちゃんが濡縁に立つ。
「あれ? 若旦那は?」
「夕星さんのところに行ってくれてるの」
衝立の件について説明すると、カンちゃんはなるほどと口にしつつ、ガラス鉢を濡縁に置くと豆ちゃんを呼んだ。
「豆吉、休憩の茶菓子を部屋に置いてきたから、ひと息いれていいぞ」
「わぁ、ありがとうございます! 実は喉が渇いてて。少し休憩したらまた手伝わせてください!」
まだまだやる気に満ちている豆ちゃんに、私が「そのままゆっくりしてても大丈夫だよ?」と勧めるも、彼はブンブンと左右に首を振った。
「言ったじゃないですか。いつき様のお役に立ちたいんです。ではまたあとで!」
深くお辞儀してから生き生きとした様子で客室を出ていく豆ちゃんの背中を見送っていると、カンちゃんが微笑ましそうに笑う。
「相変わらず懐かれてるな、姫さん。豆吉を助けてからもう何年だ?」
「んー……三年?」
そのくらいだったかなと適当に答えてみると、鉢に水を注ぐためにホース手にした大角さんが「いや」と低く落ち着いた声で訂正した。
「四年だ。いつきが高校に上がる年の春だった」
四年。
高校生活を送っていた頃は、ほぼ毎日宿の手伝いをしていたのであっという間に過ぎたイメージがある。
もうそんな経つのかという感覚を持ちながら、豆ちゃんを助けた日のことを思い出す。