「ありがとう。もう大丈夫よ。昨日は問題なく動けていたし」
はたきを手に微笑んでみせるも、豆ちゃんの目は気遣いを滲ませたままだ。
「でも、少し心配です。良かったら僕もお掃除お手伝いしますよ!」
「えっ、でもこれは私の仕事だし」
「僕はいつき様のお役に立ちたいんです」
健気な瞳で見つめられ、胸がキュンと締め付けられた。
しかし、豆ちゃんはお客様。
いくら常連で天のいわ屋の従業員と仲がいいとはいえ、さすがに掃除を手伝ってもらうのは……と悩んでいる間に、豆ちゃんは頭に瑞々しい緑の葉を乗せると「ドロン!」と叫んだ。
ボワッと弾けるように現れた煙が豆ちゃんを覆い、やがて現れたのはひとりの少年。
こげ茶色の髪と、黒目がちな瞳。
筒袖の衣に膝丈の袴を纏い、尖った耳と丸みのある尻尾はそのままなのが愛らしい。
「さあ、やりましょうか! 指示をお願いします、いつき様」
やる気満々といった笑顔を向けられては断るのも申し訳なくなり、私は「じゃあ、少しだけお願いします」と頭を下げ、共に掃除に取り掛かった。