母様と作った歌はいくつかレパートリーがあり、掃除に関していえば【お掃除はつらいよ~掃除機の人生~】と【お掃除はつらいよ~ぞうきんの華麗なる一日~】があり、その他にも料理をする際に歌う【料理天国】というシリーズもある。
 元々は、両親を失い元気をなくした私に、母様が『歌うと楽しい気分になるんだよ』と、明るい声で歌い、私の世話をしていてくれたことが始まりだ。

 私を笑わせるような歌詞を作って、散歩に連れ出してくれたり、一緒にお風呂に入ったり。

 その後もなんとなく歌い続けている次第なのだが、まさか通りすがりの豆ちゃんに聞かれるとは思わなかった。
 お客様には効かれないように気をつけているつもりだったし、声のボリュームも押さえていたのだけれど、これからはもう少し気をつけようと心に誓う。

「それで、豆ちゃんはどうしたの? 出掛けるところ?」

 尋ねたものの、出かけるならば玄関はこちらではなく反対の方向だ。
 中庭を散策するにしても、こちら側ではない。
 特別室である天河の間と暁天の間付近は、あまり人が行き交うことのない作りになっているのだ。
 豆ちゃんは特別室ではなく二階の一般客室に滞在しているので、本来、こちら側にはまったく用事がないはずなのだがと首を傾げていると、彼は「いつき様の姿が見えたので、お加減はどうかなと伺いに」と眉を下げた。
 どうやら体調を心配をしてくれていたらしい。