***
夕星さんと朝霧さん、そしてミヅハと共に玄関先に並んでお客様に頭を下げる。
感謝の気持ちを込めて「ありがとうございました」と伝え、お客様が見えなくなるまで手を振った。
天のいわ屋は人には見えない宿だけれど人の世にある為、時間は現世に合わせて動いている。
チェックアウトは現世の十一時で、次のお客様のチェックインが十五時。
通常はこの間に中抜け休憩が入るのだが、今日に限っては休憩返上で働くのだ。
猿田彦夫妻をもてなすべく、天河の間の庭園を改造するのだから。
とはいえ、腹が減ってはなんとやら。
休憩室で豊受比売様の作るまかない料理を前に、私はパチンと手を合わせた。
「いただきます!」
本日のメニューは【てこね寿司】だ。
こちらも伊勢うどんと同様、伊勢の名物料理で、元は志摩の漁師がとれたカツオを船上でさばき、醤油に漬け、持参した酢飯に「しゃもじがねぇから手でやっちまうか」と手でこねたことからその名がついたとか。
ちなみに、てこね寿司といえばカツオが定番なのだが、現在はマグロや白身魚、伊勢海老などバリエーションも豊富だ。
豊受比売様はカツオとマグロの二種類を用意していてくれて、私はマグロをチョイス。
隣の席に腰を下ろすミヅハはカツオを選択したようだ。