“私”が私の意識へと切り替わり、急速に現実へと浮上する。
パチリ、目を見開き、天井を見つめて数秒後。
「カンちゃんと、大角さん?」
夢の中に出てきたふたりの名を口にした。
今より十歳ほど若いような感じはしたが、確かにカンちゃんと大角さんだった。
服装も天のいわ屋でよく見かけるようなものではなく、かなり昔の庶民が纏う無地の小袖と袴姿だと記憶している。
思い返せば、”私”も十二単を着ていたので時代は平安あたりだろうか。
しかし、なぜそんな夢をと体を起こしたところで昨夜のことを思い出す。
仕事が終わってから母様の見舞いに行くと、働けず暇だという愚痴を聞きながら、一緒に観ていたのが時代劇だ。
そのドラマは戦国時代ものだったけれど、影響を受けていたのだろう。
布団から出た私は、出勤の準備をすべく洗面台の前に立ち、ぬるま湯を捻り出した。
ゴボゴボと排水溝へと水が流れる音を聞きながら顔を洗い、柔軟剤の香るタオルで水分を拭う。
なぜだろう。
夢の内容が頭から離れない。
この感覚は、貧血で倒れた際に白昼夢のようなものを見た時と同じだ。
「そういえば、男の人だった、よね」
もしかして、白昼夢で見た”彼”と、夢の中の”私”が会いたいと願っていた”彼”が同一人物などということは……。
「さすがにないか」
鏡越しにこざっぱりとした自分の顔を見つめ自嘲すると、気合を入れるために両手で頬を叩いた。
気持ちを切り替えるように息を吐いて、歯ブラシを手に取ると支度を再開させる。
さあ、今日もお客様をもてなすべく頑張ろう。