──頬を伝う涙がぽたりと落ちて、十二単の衣を濡らす。
 御簾の隙間から差し込む月光を受け、”私”は声を殺して泣いていた。
 吹き込む夜風に高燈台の火が揺れると、床に伸びる三つの人影も揺らめく。
 そのひとつが、頭をがしがしと掻いた。

『姫さん、そんなに泣くなよ』
『ここはそんなに辛いか』

 聞きなれたふたりの声に”私”は迷いなく頷く。

『辛いわ。広い部屋も、立派な着物も、豪華な食事もいらないから、村に帰りたい』

 元の生活に戻りたいと切望する“私”に、大きな影の頭が無言で俯いた。
 その隣に座る影もまた、悲し気に肩を落とす。

『……会いたいんだな、あいつに』
『会いたいわ……とても、会いたい』

 尽きることのない寂しさに、”私”の唇がここにいない”彼”の名を紡ごうと開いた。
 顔を上げると、”私”を心配するふたりの姿が飛び込んでくる。

 頭に布を巻いた青年と、大きな体躯を持つ猫耳の青年。

 それが誰であるのかを認識した刹那、テレビのコンセントを乱暴に引き抜かれたように、全ての音と景色が暗闇に消えた。