私は昔からうまく取り繕うことやポーカーフェイスというものが得意ではなく、むしろ得意であったなら学生時代に『あいつ、ひとりで木に向かって喋ってたぞ。気持ち悪いな』などと言われるような事態にならなかったはずだ。
それにしても、ミヅハの態度がこの休憩中に変わったと感じるのは気のせいではないだろう。
母様に婚姻を結べと言われたから……というのは、少し違う気がする。
なにせ、朝の彼は、余計なことは聞くなというアピールを存分にしていた。
その後、昼食時に休憩室で会った時も、特にこれまでの彼と接し方は変わらなかった。
ではいつからだろうかと、脳内で時間を巻き戻して辿り着く。
そうだ。おはらい町を歩きながら、結婚について話してからではなかったか。
今もミヅハが言っていた。
寂しく思う必要はないと。
それはキャンドルショップに入る前にも告げられた言葉だ。
もしかして、結婚に戸惑う私に気を使ってくれているのか。
しかしそれだと、少なからずミヅハは結婚を前向きに考えているということになる。
そうでなければ、あとは赤福氷の甘さに心まで甘くなったとしか思えない。
いやでも赤福に入る前も言っていたし、つまりどういうことだと半ば混乱している間に、赤福氷を完食したミヅハがスプーンをお盆に戻した。
「ごちそうさまでした。土産、今なら人が少ないから並ぶぞ」
「う、うん」
空になったお椀に向かい、綺麗に手を合わせたミヅハが立ち上がるのに合わせ、私も腰を上げる。
結婚話が持ち上がってからミヅハに振り回されている気がしてならないが、土産の列に並ぶ彼の横顔は憎らしいほどにいつも通り涼しい。
何だか少し悔しい思いを抱えた直後、さきほどの言葉が「いつき以外は娶らない」と言っているのだと悟り、顔がじわりと熱を帯びていく。
時間差でまたもミヅハに振り回される私は、こっそりと深呼吸を繰り返し、暴れる心臓を宥めいてた。