「なにがだ?」
「え、あの……ほら、神大市比売様の話を聞いて、神様って一夫多妻制なんだよねと」
と、そこまで口にしてから、正直に話し過ぎたのではと気付いた。
前の『嫌だな』と繋げれば、簡単に『神様って一夫多妻制なんだよね。それは嫌だな』の出来上がりだ。
正確には『ミヅハが一夫多妻制にしたら嫌だな』なので、話し過ぎてはいないのだが。
しかし、明治時代の一夫多妻制の頃に生きているならともかく、私は平成生まれ。
現代に生まれた日本人女性としては至極当然の意見として捉えてくれるだろうなどと考えていれば、ずいっと私の前に銀色のスプーンが差し出された。
「ん」
「な、なに?」
「ん」
良く見ると、スプーンにはかき氷とこし餡が乗っている。
くれるということなのだろうが、なぜこのタイミングなのか。
まさか、訊ねておいて、かき氷に夢中で聞いていなかったというオチなのでは。
「溶ける。早くしろ」
急かされ、慌てて口を開けるとキンと冷えたかき氷が口内でじわりと溶けた。
抹茶とこし餡の相性が抜群で、ほっぺたが落ちるという表現がピッタリだ。
「美味いか?」
「めっちゃ美味しい」
上品な甘さに頬を押さえて頷くと、ミヅハはもうひとくち私の口に氷を運ぶ。
あむりと遠慮なく食んだところで、瑠璃色の瞳が少し柔らかさを持っていることに気付いた。
「余計な心配はしなくていい。寂しく思う必要はないと言っただろ」
どうやらバレているらしい。
『ミヅハが』などとは決して声にしていなかったはずなのになぜと考えている合間にも、私の頬は羞恥に赤く色づいていく。
「どうして言いたいことがわかったの?」
「いつきのことならわかる。顔に出るし、単純だからな。美味いものを食べれば、気持ちがすぐに上向くくらいには」
「うっ……」
悔しいが否定はできない。