「じゃあミヅハにとって赤福は縁が深いのね」
「まあ、俺は二代目だけどな」
縁が深いのは、千年以上五十鈴川の水神として祀られ見守ってきた先代だと話すミヅハ。
私は先代の水神様に会ったことはないけれど、母様ととても仲が良かったのだということは母様本人から聞いて知っている。
色々と理由があり、ミヅハに二代目の座を託して死者の住む黄泉の国へと旅立ってしまった為に、今はもう、会うことは叶わなくなってしまったということも。
「でも、代替わりがあるとか、神様も大変なんだね」
呟いて、しかし他の神様たちは代替わりをしている様子はないことに気付いた時、店員さんの声が、私たちの手にする番号を読み上げた。
「お待たせいたしました。『赤福氷』と『赤福盆』でございます」
「ありがとうございます!」
私とミヅハの間に置かれた木製の丸いお盆には、赤福氷がひとつと赤福餅がふたつ乗った皿、それから温かい番茶がふたつ。
夏限定の赤福氷はミヅハの分で、私は昨日倒れたばかりなので一応気を使って赤福餅と番茶がセットになっている赤福盆にした。
ミヅハは目を輝かせながらスプーンを手に取り、綺麗な姿勢で「いただきます」と手を合わせると、抹茶蜜のかかったかき氷を掬う。
そうしてひとくち口内へと運ぶと、ミヅハの目尻が幸せそうに下がった。
ああ、変わらないなと、幼い頃のミヅハを思い出す。
満面の笑みを浮かべる……というのは見られなくなったけれど、私は昔から、このミヅハの幸せそうな顔が好きなのだ。