「いつか、人も神様もあやかしも、みんな同じ国で暮らせる…なんて、ならないかな?」
「……同じ国、か」

 基本的に、神様には天上界に神々の暮らす【高天原(たかまがはら)】という国があり、あやかしたちには根の堅洲国がある。
 けれど、人の生きる現世に住む神やあやかしも多くいる。
 遥か昔から、人に紛れ、人から隠れ、脅かさず、脅かされない距離を保って。

 天のいわ屋を利用するお客様たちは、ほとんどが現世で生活をしていて、日々の疲れを癒して帰る。
 人である私に、移り変わりの激しい現世での困り事を相談してくるお客様も多く、その度にいつも思っていた。

「神様もあやかしも、人と同じように悩んで生きてるんだし、分かり合えると思うんだけどな」

 まあ、見た目が奇抜というか衝撃的なあやかしもいるので、それについては微妙ではあるかもしれないけれど、きっと慣れればどうにかなる……と思うのは私だけなのだろうか。
 でも、それが出来ていたなら、とっくの昔に共存している世界になっているはずだとも思うので、そんな簡単な話ではないのだろう。
 むむむと悩む私に、ミヅハは小さく笑った。

「……お前は、あの頃から変わらないな」
「え?」

 あの頃とは、いつの頃だろうか。
 もしや幼い時に似たようなことを口にしたのかと訊ねようとしたところで、「おまちどおさま」と神大市比売様が数本の番傘を抱えて戻って来た。