このおおいち堂では、現世のものも取り扱っており、店内にはあらゆる食料品に薬、お札や提灯、食器類に和雑貨、織物や生活用品と多種多様な商品が並べられている。
そのうちのひとつ、絆創膏らしき四角い箱を手に取ったところで「いらっしゃいませ」という色っぽさを纏った声が聞こえてきた。
現れたのはおおいち堂店主の神大市比売様。
神大市比売様は腰まである長い髪をゆったりと揺らし、たれ目がちな瞳に私たちの姿を映すと穏やかな笑みを浮かべた。
「まあ、よくきてくれましたね、いつき。相変わらず瀬織津姫のところで頑張ってるみたいですね」
「はい。まだまだ未熟ですけど、毎日楽しいです」
「宿で働くのに飽いたなら、ぜひうちにスカウトしたいと思っているのですが、その様子だとまだまだスカウトは厳しそうですね」
フフッと上品に笑った神大市比売様は、今度はミヅハに微笑みかける。
「ミヅハも、若旦那として日々成長していると、先日買い物にきた瀬織津姫から聞きましたよ」
「俺には愚痴を零してきたと」
「それは二割ほどで、ほとんどがあなたたちふたりへの誉め言葉でした」
素直じゃないですねと着物の袂をおさえつつ口元に手を添えて笑顔を見せてから、神大市比売様は「それで、今日は何が必要でいらしたんですか?」と訊ねた。