「俺は構わないが……体調は問題ないのか?」
「平気よ。本当に、ただの貧血だと思うし、一応サプリメントも摂ったから」
「……そうならいいんだが……」
私を見つめるミヅハの瞳が、何かを探るようにゆっくりと揺らぐ。
「倒れた経験は、昨日が初めてなのか?」
「事故を省けば多分そうだと思うけど……どうして?」
首を傾げた私に「いや……別に」とだけ答えたミヅハが、おおいち堂へと足を向けたので私も並んで歩く。
きっと心配してくれているのだろうが、それにしてはどこか考え耽っているような素振りが見られた。
そういえば、今また『別に』とそっけなく言われたけれど、あまり気にならなかったことに気付く。
さきほどキャンドルショップに入る前、ミヅハから寂しく思う必要はないという言葉を聞けたからかもしれない。
我ながら単純だと、どこかくすぐったい気持ちを持ちながら、おはらい町の賑わいから離れ、背の高い塀に挟まれた人気のない細い路地を通る。
やがてぶつかった行き止まりに──ゆらり、陽炎が現れ、目的地であるおおいち堂が姿を見せた。
重厚感のある日本建築は風情のある佇まいで、入り口に下がる朱色の暖簾には大きく【おおいち堂】と白い文字で書かれている。
入り口脇には【営業中】と記された腰の高さほどある木製の看板が立ち、私たちは暖簾をくぐると格子扉を開けた。
「ごめんくださーい」
コンビニのように入店を知らせるベル音はないので、声をかけつつ店内を見渡す。