確かに、ミヅハの態度がそっけないと気付いた時は戸惑った記憶がある。
けれど、ただ突き離すだけでなく、そこに優しさや思いやりが隠れているとわかる何かがいつだってあった。
昨日、私が倒れた時もそうだ。
いざとなれば、誰よりも早くその手を差し伸べ気遣ってくれる。
だから、彼をひどいと思ったことは一度もなく、ひっそりと寂しさを募らせていたのだ。
そして先ほど、ミヅハが互いにとっていいと思っていたという言葉で、夕星さんが話していたことを思い出した。
ミヅハが抱え込みすぎて迷走していると、小さく笑いながら口にしていたのを。
水神であるミヅハには、私にはわからない悩みも色々とあるのだろう。
今もミヅハは、私の言葉を受けて考え込むように俯いてしまっている。
あまり悩みを増やしては申し訳ないので、とりあえずこの話は一旦切り上げようと笑みを浮かべ「何か理由があるなら仕方ないね」と告げたのだが。
「嫌なわけがない。だから、寂しく思う必要もない」
突然、意を決したように顔を上げたかと思えば、伝えられたのは少し前に動揺しながら問いかけたものの答え。
ミヅハは私から目をそらすと「行こう」とぶっきらぼうに言って背を向け、目的地のキャンドルショップへと進んでいく。
その耳が、ほんのりと朱を差しているように見え、ミヅハの言葉の甘さに気付いた私の頬まで熱を持つ。
初恋だった相手から、結婚するのは嫌ではなく、相手が私なら損得などどうでもいいと言われ、何も意識しない女性はいるのだろうか。
暴れる心臓を落ち着けようと深呼吸をしてみるもうまくいかず、走り出したくなるような気持ちでミヅハを追う。
その背中に「私も嫌じゃないよ」と投げかける勇気は終ぞ出ないまま、私たちはキャンドルショップへと足を踏み入れたのだった。