「瀬織津姫はきちんと意味を見出して婚姻の話を持ち出したはずだ。もし、損得を踏まえての婚姻であるなら、それによって得があるのは俺ではなくいつきになる」
「わ、私? 神様との結婚って、人間に何か得があるの?」
「得となりうるかはそれぞれの価値にもよるだろうが、伴侶となれば寿命が……」

 おかげ横丁の入り口に差し掛かったところで、ミヅハは突然ピタリと歩みを止めた。

「まさか、そういうことなのか?」

 目を見張った後、眉を寄せ、何かに気付いた様子のミヅハに、私は「どうしたの?」と訊ねる。
 するとミヅハは、迷うように瞳を揺らしてから、ゆるゆると首を振った。

「いや……少し、確認することができただけだ。悪いが、今俺が教えられるのは、神族との婚姻により人が得られるものは、神と同じものが見聞きできるようになり、寿命が格段に延びる、ということだけだ」

 なるほど、と私は納得する。
 確かにそれは人によれば得となるのだろう。
 私はすでにほとんどを見聞きできる体質なので、変わるのは寿命の部分だけだ。
 しかしそこでふと疑問が浮かび、おかげ横丁を進むミヅハに合わせて足を踏み出しつつそのまま口にした。

「ということは、ミヅハと結婚したら、私は人ではなくなるの?」

 神に嫁ぎ、神族の仲間入りを果たすことにより寿命が延びるならば、それは人と呼べる者なのだろうか。