神大市比売様は、おはらい町やおかげ横丁の賑わいから少し離れた【内宮おかげ参道】近くに店を構える女神様で、死者の国への入り口【黄泉比良坂(よもつひらさか)】の先に、死者の国とは別に【根の堅洲国(ねのかたすくに)】という神とあやかし、死者までが共に暮らす空間があり、そこに住む天照様の弟、須佐之男(すさのお)様のふたり目の奥様だ。

 内宮にある摂社のひとつ湯田(ゆた)神社に祀られていて、商売繁盛、市場の繁栄を守護する神様なのだが、ご本人も商いごとが好きで店を構えたとか。
 ただし、神大市比売様のお店【おおいち堂】は、天のいわ屋と同じく神やあやかしにしか見えず、人は入ることはできない。

「先にキャンドル屋に行ってみるか。天宇受売様は新しいもの好きだし、人間の店で売ってるものは洒落てるものも多いからな」
「スイーツもね」
「ああ、スイーツも最高に美味いものを作り出すな」

 急に目を輝かせるミヅハのわかりやすさに、私は思わず小さく笑ってしまう。

 おはらい町とおかげ横丁には、食事処や土産屋、雑貨屋にカフェや茶屋と様々な店がひしめき合っていて、食べ歩きができる店もたくさんある。
 道行く人々の手には、土産の入った袋の他に、ドーナツや串焼き、ビールにコロッケなどを持って腹を満たしている人も少なくない。
 まして今日は、昨日の雨模様が嘘のような快晴だ。
 色とりどりの傘が花のように開いた参道も風情があって素敵だけれど、伊勢を満喫し、晴れやかな笑顔が咲いている風景も活気があっていい。
 燦々と照らす太陽の下で、私は隣を歩くミヅハを見上げる。

「今日は気温高めだし、買い物が早く終わったら赤福氷を食べて帰ろうか?」