ミヅハが私を心配してくれている。
だから、買い出しについてきてくれるということなのだろうけれど……幾千とは、何かの例えなのだろうか。
それが何を指しているのかわからずに夕星さんを見つめていると、彼はまた小さく笑った。
「それにしても、若旦那も難儀だね。抱え込みすぎて、君への関り方が迷走している」
美しいようで美しくないなと続けた直後、カンちゃんを狙っていたはずの水の矢が一斉に夕星さん目掛けて飛んできた。
けれど、夕星さんは特に狼狽えることなく瞬時に発生させた狐火で全て止める。
ミヅハが怖い目で夕星さんを睨んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「どうやら喋りすぎたようだね。ボクはフロントに戻ってもう一仕事してくるよ」
庭園を飾り付ける際はボクも協力させてもらおうかなと言い残し、夕星さんは休憩室から去っていった。
ようやく攻撃が止んだカンちゃんは、ひでえよと半泣きで部屋を飛び出していく。
「……ふたりとも余計なことを」
どうやら、カンちゃんも夕星さんも、ミヅハの逆鱗に軽く触れてしまっていたらしい。
何はともあれようやく静かになり、私はミヅハを見上げた。
「えっと……それじゃあ、一緒に出かける?」
「ああ。出来るところまで準備をして、明日、部屋の清掃と同時に庭園の飾り付けに入ろう」
「わかったわ。じゃあ急いで準備してくるね」
ミヅハが頷くと、私は着物の袖をまとめていたタスキを解き、支度すべく離れ屋敷へと走った。