私の中抜け休憩は十一時半から十四時半までなので三時間あるけれど、すでに時計の針は十二時を過ぎている。
あまりのんびりはしていらないと椅子から降りれば、ミヅハも動き出した。
「……俺も行こう」
「大丈夫だよ。私ひとりでも」
せっかくの休憩時間に付き合わせては悪いと思い断ったのだけれど、ミヅハは「用事のついでだ」と言って湯呑を洗い物用の籠に入れる。
すると、同じく湯呑を片付けるカンちゃんがミヅハを見て眉根を寄せ小首を傾げた。
「用事? さっきはこれから仮眠取るって言ってええええてててて! いってぇ!」
「な、なにごと?」
いきなり痛がるカンちゃんを良く見ると、彼の背後に立つミヅハの手のひらから、次々と水の矢が放たれてカンちゃんの背中を打ち付けている。
さきほどカンちゃんが夕星さんの狐火を消した技と似ているのは、どちらも水を司る性質の神とあやかしだからだ。
そういえば、以前母様に神様とあやかしの違いを尋ねたことがあったのだが、道具が化けてあやかしとなったものが付喪神という呼び名であるように、その境界は曖昧なのだと教えてくれた。
あやかしを神として崇める土地もあるのだと。
今ではなんとなく理解できる気はするが、なぜふたりが激しくじゃれ合っているのかは理解ができず見守っていたら、夕星さんが私の隣に立って「ふふ」と笑う。
そうして、そっと私の耳元に唇を寄せると「若旦那はね、幾千の時を経ても、君のことが心配でたまらないんだよ」とこっそりと耳打ちした。