「豆ちゃんがいるよ」
「ああ、豆狸の豆吉さんね! いつか私も会いたいわ」

 垂れ目がちな瞳を輝かせてあやかしとの対面を願う彼女に「怖くはないの?」の問いかけると、さくちゃんはフフッと小さく笑った。

「いっちゃんからよく話を聞いてるから、あまり怖いとは思わないわねぇ」

 例えば、目の悪いひとつ目小僧が、これでは仕事にならないからとメガネを欲しがり、伊勢市内の眼鏡屋を一緒にはしごした話。
 例えば、寒がりな雪女の為にホッカイロを大量に購入して送ってあげた話。
 そんな話を聞かされていたら、どちらかと言えば湧くのは恐怖心より親近感だと微笑む彼女に、豆ちゃんは「機会があればいいですよ」と尻尾を振った。

「豆ちゃんが、機会があればって」
「わぁ、嬉しい!」

 あやかしたちは普段、人に姿を見せることはない。
 必要があれば見せることもあるらしいが、昔と違い、技術が発展した今の世は、メディアやSNSですぐに拡散されてしまう。
 そうなると、面白がって探され、追われる危険性があるため、滅多なことでもない限り姿は見せないのだそうだ。
 豆ちゃんのように化ける能力を持ったあやかしや、力のある神様やあやかしならば、人の形をとり人に紛れて生活している場合もあるけれど、彼らの存在を見分けられる人間はそうそういないだろう。