伊勢うどんを最後まで美味しく食べ終えた私は、簾を持ち上げて「ごちそうさまでした」と伝えて食器を厨房側へと押し入れた。
 小さな声で「おそまつさまです」という可愛らしい声が聞こえるも、すぐにミヅハの落ち着いた声が重なる。

「そうなると、他の部屋でお願いするしかないな。天河の間は?」
「空いているよ。ちなみに天河の間も提案済みだけど、庭園が違うからと断られた」
「やはりそこか」

 夕星さんの言葉にミヅハがそっと息を吐いた。

 暁天の間と天河の間の違いは、離れであるかと日本庭園の広さだ。
 部屋の広さは同じで、露天風呂付なのも変わらない。
 では、なぜ暁天の間に拘っているのか。
 それは、天宇受売様が日本庭園の小さな池に架かる橋を舞台にし、舞を披露するのを猿田彦様が楽しみにしてらっしゃるからだ。
 と、そこでふと閃いた。
 舞の舞台が欲しいのならば、天河の間の庭園にて舞うと、天宇受売様の舞が美しく際立つような日本庭園を作ればいいのではないか。

「あの、それなら、天河の間の庭園を改造してみるのはどうかな?」
「改造? 今からか?」

 ミヅハが軽く目を見張る中、私はひとつ頷き笑みを浮かべた。

「改造と言っても大掛かりなものではなくて、蝋燭をいくつも並べて雰囲気を出してみたり、和傘や紫陽花を置いてみたりするの」